甘え
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────過去の出来事を振り返ったルークは、改めてフレンダのことを見下ろす。
「こいつは……僕だ。一歩間違えたら、僕もこんな風になっていたかもしれない」
プリシラが魔法を使えない状態になってなければ、ルークが魔力無限になってなければ逆恨みをしていた可能性は充分ある。
だから、他人事とは思えないようだ。
「ううん、ルークはこんな風にならないよ、絶対」
一切迷いのない口調で断言したのは、他の誰でもないプリシラ。
どこまでも澄んだ瞳でルークを見つめ、彼女は胸元にそっと手を添える。
「だって、私の知っているルークは誰よりも自分に厳しい人だから。そんな甘え、許さないよ」
「!」
いっそ恨んでしまった方が楽でも、決して現実から目を背けない。
それが、ルーク・ツヴァイ・レーヴェンという人間。
「(プリシラは僕のことを買い被り過ぎだ、全く……)」
ルークは呆れたような……でも、どこか少しだけ吹っ切れたような表情を見せた。
と同時に、フレンダが憎悪を孕んだ目でプリシラを睨みつける。
「おい!私が甘えていると言いたいのか!?」
まさかの流れ弾を受けて憤慨するフレンダに、プリシラはチラリと視線を向けた。
「うん、話を聞く限りは」
目線を合わせるように少し屈んで、プリシラはオレンジがかった瞳を真っ直ぐに見つめる。
「貴方は周りの目にこだわり過ぎているというか、他人の価値観に依存しているように見えます。自分がないって、言うのかな?だから、自分で自分を守れない」
感情面で追い詰められたとき、フレンダは自分の中で折り合いをつけることが出来ず、外側に原因と解決を求めた。
その結果が、これ。
「いい目を持っているのが、仇になってしまったのかもしれません」
類い稀なる観察眼。
それこそが、フレンダの最大の強みであり弱点だった。
あるときは試作品である魔道具の欠点を一瞥で見抜き、あるときは宮廷魔道具師に扮した間者を一目で見破り、あるときは遥か昔に作られた魔道具の扱い方を一晩で見極め、あるときはシュタインの本心を一瞬で見透かした。
「(人より多くものが分かるからこそ、他者に囚われて自分を持てないのか……まるで、呪いだな。研究者としては、欲しい能力ではあるけど)」
ルークは僅かな同情と羨望を抱き、小さく肩を竦めた。
その傍で、フレンダは唇を噛み締める。
「分かったような口を聞くな!お前に、私の何が分か……っ!?」
不意に空の方を見上げ、フレンダは大きく瞳を揺らした。
それも、その筈────自身の仕掛けた魔道具が、こちらに飛んできているのだから。
まあ、正確には────
『『『ただいまー!』』』
────精霊達が運んでいる、なのだが。
(良かった。無事に全て回収出来たみたいだね)
フレンダから聞き出した魔道具の数と一致するため、プリシラは肩の力を抜く。
そんな中、精霊達が近くまでやってきて魔道具を下ろした。
『はい、どーぞー!』
『こっちとこっちはちょうど見つけたときに発動したんだけど、被害は0だよー!』
『すぐ水と風で覆ったからねー!』
『他のやつも一応、覆ってあるよー!』
うっすらと見える透明の膜を指さし、精霊達は得意げに顎を逸らす。
完璧な対応をしたと自負しているらしい彼らの前で、プリシラは頬を緩めた。
「ありがとう、精霊さん達。誰も傷つかずに済んだのは、皆のおかげだよ」
小声でお礼を言い、プリシラは心から被害0を喜んだ。
ルークも、同様に。
ただ一人、フレンダだけは別のことを考えているようだが。
「嘘……これも魔道具の効果か?いや、それにしてはあまりにも特異すぎる……それによく考えてみれば、あのときの相殺も……そうか!お前は────精霊の愛し子!」
さすがは類い稀なる観察眼の持ち主とでも言うべきか、プリシラの秘密を暴いてしまった。
「はははははっ!天才たる所以はそれか!いや、天才じゃないな、これは!価値があるのは精霊で、お前自身じゃないんだから!とんだ、詐欺師じゃないか!こんなのが史上最高峰の錬金術師だなんて、滑稽だな!」




