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前を向く

(一体どうすれば償えるんだ、こんなの……)


 全身に伸し掛かる重い重い罪に、ルークは目眩さえ覚える。


(プリシラの奴隷にでもなれば、いいのか?もしくは、僕も魔導師の道を諦めて……いや、あいつはきっとそんなの望まない。僕の自己満足で終わるだけだ)


 目に見える罰を受けるという考え自体、ルークの“甘え”である。


(けど、母上も言っていた通り謝罪一つじゃ済まされない……済ましてはいけない。でも、プリシラの求めていないことをするのは……嗚呼、思考が……全然まとまらない)


 堂々巡りとなってしまい、ルークは額に手を当てた。

結局、そのまま結論は出ず────翌日を迎えた。


「ルーク、経過はどうかな?」


 お昼頃にルークの元を訪れたプリシラは、小首を傾げる。

のんびりとベッドの傍まで歩いてくる彼女を前に、ルークは弾かれたように顔を上げた。


「あ、ああ。至って、いつも通りだ」


 体調に変化はないことを告げ、ルークは僅かに表情を硬くする。


(せっかく、プリシラが来たのだから一先ず謝罪をするべきか)


 昨日はタイミングの問題やらなんやらで、助けてくれたお礼しか言えていない。

こういうのは早い方がいいし、この機を逃す手はなかった。


「プリシラ、治療のこと母上達から聞いた。そのせいで、魔法を使えなくなったことも……」


 言葉の端々に憂いを滲ませ、ルークはゆっくりとベッドから降りる。

反省と後悔が波のように押し寄せてくる中、彼は膝をついた。


「本当にすまない」


 ズボンを強く握り締め、ルークは深々と……本当に深々と頭を下げる。

その影響か背中が丸くなる彼を前に、プリシラは少し身を屈めた。


「ルーク」


 彼の両頬を優しく包み込み、プリシラはそっと持ち上げる。


「私はね、こうなったこと後悔してないの。本当だよ。だから、気にしないで」


 ルークの目を真っ直ぐに見つめて、プリシラは明るく笑った。


「大好きな家族のためなら、これくらい安いものだもん」


「っ……」


 大きく瞳を揺らし、ルークは視線を逸らした。

いつもの研究でこうなったなら、プリシラの思いを素直に受け止められたかもしれない。

でも、今回はプリシラを羨むあまり行ったもの……


「そんな風に言ってもらう資格なんて……僕には、ない」


 到底納得は出来なかった。自分自身を許せなかった。


「僕はプリシラの才能に嫉妬して、何か一つでも上回ろうと足掻いて……その結果が、これなんだ。僕がもっと器の大きい人間で、自分の感情をコントロール出来るほど理知的なら、こんなことにはならなかった。だから……」


 堪らず胸の内を明かすルークに対し、プリシラはキョトンとした表情を浮かべる。


「嫉妬することも、上回ろうと足掻くことも別に悪いことじゃないと思うけど」


 ルークの頬からおもむろに手を離し、プリシラはその場にしゃがみ込む。


「だって、私に八つ当たりしたり卑怯なことをしたりした訳じゃないでしょ。正々堂々と頑張っただけ。今回はあれだよ、ついてなかったの」


 事故みたいなものだと主張するプリシラに、ルークは一瞬呆気に取られた。

あまりにも、軽い……というか、さっぱりしすぎていて。


「いや、でもこうして迷惑を掛けているんだし……」


「迷惑なんて、思ってないよ。むしろ、ちょっと感謝しているくらいだし」


「感謝?」


「うん────ルークのおかげで、物作りの楽しさを知ることが出来たから」


 先程より弾んだ声色で答え、プリシラはうんと目を輝かせる。


「不老不死の薬を作っているときにね、ピンと来たの。『これが私の天職だ』って」


 ニコニコと機嫌良く笑い、プリシラは立ち上がった。

かと思えば、ルークの方に手を差し伸べる。


「これから、私は物作りの道を極めるよ。ルークも気にせずいつも通り、自分のやりたいことを目いっぱいやって。その方が、私も嬉しい」


 裏表のない真っ直ぐな言葉。紛うことなき本心。

だから────


「分かった。ありがとう」


 ────ルークは彼女の手を取り、救われた。


 その後、本件の処理に多少時間は取られたものの、彼はいつも通り(・・・・・)鍛錬と研究に打ち込む日々を送っている。

────と言っても、完全に元通りではない。

やっぱりプリシラへの罪悪感・敗北感・劣等感は大なり小なり残っていて、時折『プリシラの魔導師生命を奪った分、僕が頑張らなくては』と焦ったり『プリシラなら、もっと迅速かつ正確にやれただろうな』と落ち込んだりする。

それでついピリピリ・カリカリしてしまうが、一応腐らず前を向いている。


 また、これは余談になるが────ルークは己の寿命を対象に、再び魔力変換を行い、魔力無限となった。

今度はプリシラへの対抗心じゃなくて、純粋に『研究に必要な魔力が足りないから』という理由で。

あと、せっかく魔力無限となれるのに(不老不死なのに)利用しないのは勿体ないと感じたようだ。

もちろん、その際家族にはきちんと話を通したし、『プリシラ監修の元なら』という条件を呑んで行ったため特に問題は起こらなかった。

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