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心の拠り所

「せめて、何か一つでもプリシラより勝っているところがあれば何とか折り合いを付けられそうだけど……」


 一種の心の拠り所だ。

それさえあれば、嫉妬やプライドで思考と情緒がグチャグチャになっても『まあ、〇〇は自分の方が上だしな』と冷静になれる。


「我ながら、小さいな……でも、こうでもしないと僕はいつかきっとプリシラを傷つけそうだ」


 正直、あまり余裕のある精神状態とは言えない。

それに、今後成長するにつれ差はより顕著になるだろう。

また、表舞台に出るようになれば嫌でもプリシラと比べられる筈だ。

そのとき、平静を保っていられる自信はルークになかった。


「だから、やるしかない」


 半ば自分に言い聞かせるようにしてそう言い、ルークは手を握り締める。

それを皮切りに立ち上がり、執務机へ向かった。

────以降、ルークは試行錯誤の日々を送っている。

まず伸ばす能力を何にするかで悩み、魔法関係の資料を読み漁って、ひたすら予想と検証。

その間、ヘイゼルが『時間逆行魔法の件を知って、落ち込んでいないか』と様子を見に来たものの、直ぐに戻って行った。

良くも悪くも集中しているルークを目にして、『もう大丈夫だ』と判断したらしい。

────それが、最大の間違いだと気付かずに。


寿命を魔力に変換(・・・・・・・・)する術式は、もう完成している……植物で試してみたところ、問題なく作動していたし……問題はその魔力をどうやって、自分自身に移すか……」


 熟考の末、ルークは伸ばす能力を────プリシラより勝る部分を、魔力量に決めたようだ。


「魔力に変換する対象と魔力を貯蔵する対象が別だと、どうしてもややこしくなるな……」


 自室にて執務机に並べた資料を見やり、ルークは腕を組む。


(魔法陣を完全に分けて共鳴し合うようにするのが一番安全だけど、それだと調整に時間が掛かる。どんなに早くても、数年は掛かるだろう。だからと言って、一つにまとめるのは効率が悪い。不具合も起きやすいし)


 トントンと指先で椅子の肘掛けを叩き、ルークはふと天井を見上げた。


「そうなると、一番現実的なのは────連結か」


 これは共鳴と似ていて、複数の魔法陣をリンクさせるというもの。

ただ、決定的に違うのは完全に魔法陣を分けるんじゃなくて魔法陣を重ねる形で紐づけること。

ある意味、一つにまとまっているとも言える。


「連結なら、共鳴より簡単で完全に一つにまとめるより不具合も少ない。唯一の懸念点は逆流(・・)だけど、対象は僕と意思のない植物だから僕が抵抗しなければ問題ない筈」


 もし、対象がルークと意思のある生物だった場合、魔法陣でしっかり役割を分担・固定していたとしても激しい抵抗に遭えば立場が逆転する。

今回で言うと、ルークが魔力貯蔵の役目を奪われて魔力変換の役目を担うことだ。


「とりあえず、魔法陣の構築に移ろう」


 手元に視線を戻し、ルークはペンを手に持つ。

────その半年後。

ようやく魔法陣が完成し、動作確認を行うことに。


(魔法陣はしっかり用意してある……植物は庭の花を一輪もらってきたから、大丈夫……あとは、軽く配置を整えて発動するだけ)


 ルークは魔法陣の書かれた紙を二枚重ね、執務机に置いた。

更に、その上に一輪の花を添える。


「準備完了」


 少しばかり表情を引き締め、ルークは魔法陣に触れた。


(やっと……やっと、ここまで来た。僕の苦労が実を結ぶよう、きちんと発動してくれよ)


 真剣味を帯びた瞳で魔法陣を見つめ、ルークは小さく深呼吸する。

緊張しているのかいつもより慎重に魔力を流し、三十秒後────ついに発動した。

その途端、ルークは驚愕する。


「な、何で────抵抗(・・)されているんだ!?」


 相手は間違いなく一輪の花(植物)で、意思などない筈だった。

でも、ルークは一つ見落としていたのだ────精霊という存在を。

自然を司る彼らは庭の手入れに一役買っており、その影響で植物は自我を持つようになった。

自我と言っても、話せるほどの思考や豊かな感情はない。

だが、生存本能というのはしっかりあって直感的に抵抗しているだけ。


「これ、どうすれば……っ!」


 戸惑うあまり上手く対応出来ず、ルークは相手の抵抗に負けてしまった。

────それにより、立場が逆転する。


「ぐぁ……!?」


 途端に体から力が抜け、ルークはどんどん老いていく。

その証拠に、手が皺と乾燥で大変なことになっていた。

とても、十歳未満とは思えない。


(不味い……!このままでは、寿命が……命が!)


 確かに大事なものが吸われている感覚を覚え、ルークはどうにか魔法を中止しようとする。

が、指一本動かせなかった。


(ダメだ、もう……)


 意識が薄れ、ルークは目を閉じそうになる。

そんなとき、突然部屋の扉を吹き飛ばされた。


「────ルーク!」


 慌てたように室内へ飛び込んできたのは、他の誰でもないプリシラ。


「精霊さん達の言っていた通りだ……!」


 精霊達から報告を受けていたようで、プリシラはルークの状態を見ても取り乱さない。

もちろん、人並みに驚いてはいるが。


「寿命の魔力変換、貯蔵……魔力量を増やすのが、目的の研究みたいだね」


 ルークのところに駆け寄って、魔法陣の内容を確認するプリシラ。

精霊達では、さすがにそこまで分からないので。


「それで、逆流しちゃったのかな」


 あっさりと原因を見破り、プリシラはルークの頭に手を置いた。


「うん、大丈夫!私が絶対、助けるよ!だから、安心して任せて!」

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