プリシラとの差
強く手を握り締め、ルークは下を向いた。
その傍で、ライアンは興奮したように椅子の肘掛けを軽く叩く。
「新しい魔法か!それは凄いな!」
「ええ、ここ数年新しい魔法は開発されてなかった筈なので国を上げての快挙と言えるでしょう」
座っているライアンに目線を合わせるよう少し屈みながら、セバスはうんうんと大きく頷いた。
と同時に、ライアンが腕を組む。
「転移魔法を使えるようになったルークと言い、ウチの子供達は本当に優秀だな!」
(違う……確かに僕も同年代と比べればそれなりに出来るけど、プリシラは更にその上を行く。同列に扱っていいレベルでは、ない)
誤差なんてものじゃない違いを思い浮かべ、ルークは口元に力を入れた。
実際、プリシラの才能はルークより優れている。
単純な魔力コントロール能力や魔力量はもちろん、魔法への理解の深さや発想力も遥かに高い。
恐らく、歴史に名を残すような魔導師になるだろう。
(同じ日、同じ親、同じ場所で生まれたのにどうしてこんなに違うんだ……)
双子という関係であるが故につい片割れを意識してしまい、劣等感を抱いてしまう。
(……いや、僕の努力が足りないだけだ。もっと研究や鍛錬を頑張れば、きっとプリシラに追いつける)
沈んだ気持ちを何とか持ち直し、ルークは『僕も新しい魔法の開発、しようかな』と考える。
────が、そんな気力は数ヶ月後に吹き飛んだ。
何故なら、プリシラが精霊の愛し子だと判明したから。
「独り言の多い子だと思ったら、精霊と会話していたのね」
「いやぁ、プリシラは本当に規格外だなぁ!将来大物になるぞ!」
「いや、今の時点で……むしろ生まれた瞬間から、大物だ!プリシラは可愛いからな!」
レーヴェン公爵家の一室にて、ヘイゼルは納得したように頷き、ライアンは鷹揚に笑い、レクスは得意げに胸を張った。
そんな彼らを前に、プリシラはのんびり紅茶を飲む。
褒められて嬉しくない訳ではないだろうが、彼女にとって精霊と意思疎通出来るのは当たり前のことなのでいまいちピンと来ないようだ。
例えるなら、『呼吸出来て、凄いね』と言われているような気分だろうか。
「可愛さは今関係ないけれど、まあ精霊の愛し子というのは先天性のものだから『生まれた瞬間から、大物』なのは間違いないわね」
ヘイゼルはレクスの言葉に半分同意しつつ、隣に座るプリシラを見下ろした。
「ところで、精霊と契約はしたの?」
「してないよ」
「あら、そうなの?(精霊術なしであの実力なんて、恐れ入るわね)」
精霊術とは精霊と契約し、正式に自然へ干渉する権利を得た上で魔法を行使することだ。
それによって何が変わるのかと問われれば、単純に────魔法の扱いやすさが、違う。
術者の想像力と感覚だけで行う無詠唱でも、まるで自分の手足のように魔法が思い通りに操れるし、魔力そのもののコントロールも容易になる。
故に、一部では真の魔法と呼ばれていた。
また、魔法の始祖────通常の魔法は精霊術を真似て作られた紛い物という見解────とも。
(どうして、プリシラばっかりこんな……)
精霊の愛し子というだけでも高い壁なのに、今の実力は素だと言うからやるせない。
精霊術を使ったら、一体どれだけ成長するのか?と。
椅子に座った状態でギュッとズボンを握り締めるルークを他所に、ヘイゼルはプリシラの頭を軽く撫でた。
「もし、契約したら一応報告してちょうだいね」
「はーい」
「それと、精霊の愛し子であることは他の人に言っちゃダメよ。良くも悪くも、色んな人に目をつけられるから」
「分かった」
すんなり了承するプリシラに、ヘイゼルは『いい子ね』と目を細めた。
かと思えば、向かい側のソファに腰掛けるライアンとレクスを見る。
「貴方達もね」
「せっかくだから、自慢したかったんだが……」
「プリシラに変な虫がついても困るし、喋らないでおく!」
ちょっと残念そうにしながらも、頷くライアンとレクス。
ヘイゼルは『頼むわよ』と念を押し、角席に座るルークの方を向いた。
「ルーク……は賢いから、大丈夫ね。ウチの脳筋達より、よっぽど信用出来るわ」
「……」
「ルーク?」
返事がないことを不思議に思い、ヘイゼルは僅かに身を乗り出す。
そっと顔を覗き込んでくる彼女の前で、ルークはハッとしたように口を開いた。
「だ、大丈夫。言わないよ」
「そう(具合が悪いという訳では、なさそうね。となると、心の問題かしら)」
さすが母親とでも言うべきか、ヘイゼルは瞬時に見抜いた。
「(今ここで問い質すのは、悪手よね。ルークは結構気難しい性格をしているから。何より、ウチの脳筋達が余計なことを言いそうで不安だわ)話は以上よ。急遽、集まってもらって悪かったわね」




