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設置場所の監視

「じゃあ、こっちに来い。設置場所の周辺まで、一緒に転移する」


 懐から魔法陣の描かれた紙を取り出し、ルークは手を差し伸べる。

恐らく、物理的接触をすることで魔法の効果範囲に含められるのだろう。


「うん、よろしく」


 プリシラはスクッと立ち上がると、ルークの元まで行って手を繋いだ。


「一応、先に姿を消しておけ」


「はーい」


 手に持っていた花のペンダントを首から下げ、プリシラは透明化する。

その様子を見て、ルークはピクッと眉を動かした。


「(本当に全く見えない……相変わらず、桁外れの性能をしているな)では、転移する」


 一応声を掛けてから、ルークは魔法陣をなぞるようにして魔力を流した。

その刹那────周囲の景色が変わり、枯れ果てた森を目にする。


「設置場所は、あの大木の根元。見たら分かると思うけど、埋められていたんだ」


 声を潜めて軽く説明し、ルークは魔法陣の描かれた紙を仕舞う。


「僕は反対側に回って、監視する。もし、ここで他の人を見かけたら片っ端から捕縛していって。なに、仮に間違っていたとしても身分を盾にすれば問題ないよ」


「それは人として、どうなの?」


「別に殺す訳じゃないんだ、相手も理解するさ。第一、あんな水が降ってきたばかりのタイミングで森の奥に来る一般人なんて居ないだろう」


「あっ、確かに」


 ポンッと手を叩いて納得するプリシラに対し、ルークは背を向ける。


「それじゃあ、また後で」


「うん、気をつけてね」


 バイバイと呑気に手を振るプリシラ。

魔道具の効果で、姿は見えていないというのに。


『ねぇーねぇー、プリシラー!僕達も犯人探し、手伝おうかー?』


『私達なら、この周辺どころか森全体を見張れるよー!』


『怪しいやつが居たらー、こうしてこう!』


 空虚に向かって、右ストレートからのアッパーを決める精霊の一人。

他の者達も真似するように、拳や蹴りを振るう。


「あまり怪我はさせないでほしいな。もし、犯人じゃなかったら申し訳ないから。ただ、手伝ってくれるのは凄く嬉しい」


『じゃあ、捕まえるだけだったらおっけー?』


「おっけー」


『『『よーし、頑張るぞー!』』』


 グルグルと肩を回してやる気満々の精霊達は、即座に散開する。

もちろん、プリシラの護衛として半分は残っている。


「さてと、私も私で頑張ろう」


 魔道具の設置場所だった大木の根元に視線を移し、プリシラはひたすら待つ……待つ。


(う〜ん……分かってはいたけど、そう簡単に現れないか)


 立っているのがしんどくなったのか、プリシラはその場にしゃがみ込んだ。

そのまま、更に一時間ほど監視を続ける。

そろそろ、この体勢も辛くなってきた頃────散開した精霊達が、戻ってきた。

それも、人一人を風で持ち上げた状態で。


『『『はい、どーぞ!』』』


 精霊達はプリシラの前にその人間を下ろした。

と同時に、相手の被っていたフードが取れ、素顔が露わとなる。

腰まである赤髪とオレンジがかった瞳、それから頬のソバカスが特徴的な女性だ。


「えっ?誰も居ない……?(森に入るなり突然体が浮いて設置場所の近くに飛ばされたから、てっきり誰か居るものかと思ったけど……まあ、なんにせよ目をつけられているのは確か。見たところ、魔道具は回収されているみたいだから)」


 設置場所の地面を見て、赤髪の女性は掘り起こされたことを察した。

一応カモフラージュはされているものの、彼女の観察眼は誤魔化せない。


「(とりあえず、引き上げよう)」


 おもむろに立ち上がって、赤髪の女性はフードを被り直した。

街の方に足を向ける彼女の前で、プリシラは鞄の中から霧吹き(麻酔薬入り)を出す。

これなら、相手に被害を与えず捕縛出来そうなので。


(あっ、一応マスクしてからの方がいいかな。私も眠っちゃう可能性、あるにはあるから)


 共倒れになることを憂慮して、プリシラは再び鞄の中を漁る。

────と、ここでルークが空を飛んで駆けつけてきた。

精霊達の手によって空中浮遊している人間を見掛け、慌てて追ってきたようだ。


「おい、そこのお前」


「!」


 弾かれたように顔を上げ、赤髪の女性は表情を硬くする。

そんな彼女を、ルークは浮いたまま見下ろした。


「何故、ここに来た?」


「……ちょっと散歩に」


「あんなことが起こった直後に、か?」


「……だからこそだよ。森の様子を見ようと思って」


「ほう?ならば、『散歩』ではなく『巡回』や『様子見』と言わないか?」


「……揚げ足取りはやめておくれよ」


 言葉の綾だと主張する赤髪の女性に、ルークはスッと目を細める。


「(あくまで真実を語る気はない、か。これは口を割るまで、長く掛かりそうだ。一先ず、連れて帰るとするか。怪しいのは、間違いない訳だし)プリシラ、こいつは僕の方で……」


「────プリシラだって!?」


 目の色を変えて食いつき、赤髪の女性は勢いよく身を乗り出した。


「どこだ!?どこに居る!?あの女の居場所を吐け!」


 怒号とも捉えられる声色で叫び、赤髪の女性は表情を険しくする。

どこか獣のような獰猛さがある彼女を前に、ルークは思わず仰け反った。


「(な、なんだ、この変わりようは……)お前、プリシラとどういう関係?」


「あの女は私の天敵だ!」


「(知り合いという訳では、ないのか?)ふーん?で、会ってどうする?」


「この手で殺す!」


「はぁ……プリシラ、出てくるなよ(対面したら更にヒートアップして、面倒なことになりそうだし)」


 プリシラ抜きで対応することに決め、ルークはカチャリと眼鏡を押し上げる。

何とか自分のペースを取り戻す彼の前で、赤髪の女性は怒りに顔を歪めた。


「そっちがその気なら、無理やり引き摺り出すまでだ!」

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