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二話

 温室の中央。バラが栽培された綺麗な部屋の真ん中に真っ白な木で出来たアンティーク風のテーブルと椅子があった。テーブルには可愛い模様が入ったクロスが敷かれてあり、そこにボーンチャイナのカップとポットを載せたトレイが運ばれてきた。

その優しい香りに鼻をくすぐられたレイナのお腹は数日振りに空腹を訴えて鳴いた。

くすり、と笑ったアルクは棚からクッキーの缶を取り出して蓋を開き、どうぞとレイナに差し出した。

レイナは恥ずかしそうにそれを受け取ると遠慮気味に食べ始めた。


「お茶はバラの花びらから作っています。香りが高く、上品な味がしますよ」

「あ…ありがとう」


改めてレイナは、この地がいかに豊かであるのかを知った。

ラズナにいた頃は瓶一つの水も貴重だったというのに、この大陸では嗜好品である紅茶やお菓子が当たり前にある。もしかしたら従者というのも他の大陸からきた貧しい人を使っていて、ごく当たり前にあることなのしれないとも思った。


「そういえばレイナさん、貴女はどこの大陸からいらしたのですか?」

「第…四大陸、ラズナ」

「第四…と言いますとラクシャルースがある大陸ですね…今は砂漠化が進んでいるとか…」

「…ええそう。ラクシャルースもだいぶ前に滅んでしまったわ…」

「えっ?そうだったのですか…お辛いでしょうね…」


レイナは弱弱しく微笑み返した。思い出すだけでも辛い過去。父と故郷を同時に失ったレイナは、ぐっと唇をかみ締めて涙をこらえた。


「それで、アルカルデには移住ですか?」

「ああ、そうそれなんだけどね…私、キリカのエネルギーを分けてもらえないかここへやってきたの」

「キリカのエネルギー?」

「そう、砂漠にほんの小さな水源でいいから取り戻して豊かな大地に戻したいの」

「それは…ぼくには難しい問題ですね…何かお手伝いできたらよかったのですが…」


資源ではなく、エネルギーそのものを分けるというのは実に漠然とした話だった。

アルクはしばらく考えた様子で頬に手を当てていたが、残念そうに首を振った。

レイナはそれも仕方ないことだと思った。相手は年端もいかない少年なのだ。キリカの恩恵を受けていてもそればかりはどうしようもない。むしろ分かる人がいるのかさえ分からなかった。


「ああでも、あの人なら分かるかも…しれません」

「あの人?」


アルクは両方のカップに温かいお茶をもう一度淹れなおして微笑んだ。


「創生主、ヨラシル様ならなにかいい知恵を授けてくださるかもしれません」

「ヨラシル…様?」


アルクは椅子から立ち上がり、クッキーを取り出した戸棚から古い聖書を取り出した。

何百年も前、天界から自身が作った星の出来を確かめるために降り立ったとされる神、ヨラシル。

その聖なる魂は尚同調する美しい魂の器の人物のもとに宿り、世界を見守っているとされる神話があった。

レイナはそういえばアルカルデにはご神体があり、そのためアルカルデはキリカの恩恵をどこよりも受けているという噂を聞いていたのを思い出した。


「ねえ、君はどこで会えるのか知ってる?」

「あ、えっと…」


身を乗り出し、ようやく解決策が浮かんだと喜んだレイナが、アルクの両手を取ろうと手を差し伸べた瞬間、ふっとレイナの背後に影がよぎり、その首筋には少し太いサーベルナイフが突き付けられていた。


「きゃあっ!何!?」

「レクシウス!」


思わず両手を挙げ、悲鳴を上げたレイナにくつりといやらしく笑った男は、ナイフをゆっくりおろしてアルクへ頭を下げた。


「彼女はお客様だよ…いきなり刃物をむけるなんて…」


ばくばくと心臓を高鳴らせていたレイナは、突然サーベルナイフを突き付けてきた男を見つめた。

視力が悪いのか眼鏡をかけた背の高い男で、始終笑みを浮かべたままレイナにも深く頭を下げて謝罪を述べた。


「お客様とは知らず、とんだご無礼を…」

「あ、いえ…私こそ温室突き破って侵入しちゃってごめんなさい…」

「レクシウス、彼女はレイナさん。レイナさん、彼はレクシウス。僕の有能な従者です」

「あのっ、他に従者さんは…?」

「私以外は四人いますが常に周囲を偵察しておりますので、あまり見かけることはないかと思います」

「レクシウスにはあるお願いをしていて数週間不在で…無事でよかったですレクシウス」

「…もったいないお言葉」


レイナは気品溢れる男のしぐさや言動に見惚れてぼうっとその様子を見つめた。

王国が栄えていた頃はレイナも王女としてそれなりにいい扱いを受けていたが、主に彼女の世話は女性がしていたため、こんな紳士的な男性が従者であることはまずなかった。

レクシウスはアルクが用意したお茶や菓子以外にもレイナに軽食を作るため、奥のキッチンに下がっていった。


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