01-18 それぞれの覚悟
「クランプ隊長が話してくれたのは、まだ私たちが十五歳の時だったかしら」
外ではもう陽の落ちた頃合。格納庫の中、グレアは懐かしみながら語り始めた。
「隊長がまだ二十歳になる前——ちょうど今の私達と同じぐらいね」
「それって何世紀前だよ」
俺の冗談に、腿への平手打ちが返ってきた。生身だったら悶絶しそうな威力だった。
「当時は連合哨戒部隊、って所属で三番機を務めていたらしいわ」
そこからの話は回りくどく、とても全部は覚えられそうに無かった。なので、一部を掻い摘んで要約すると、隊長は想像つかない程にヤンチャだったという事、その部隊の女性隊長に惚れていた事、振り向かせようと戦功を焦った事、などは飲み込めた。
「——で、その人に、タバコは良くない、って言われて禁煙するようになったんだって! ねえ、エモくない!?」
俺の腕を両手で握ってゆするグレア。さっきまでのしおらしさは、どこかに霧散してしまった様子。
「わかったわかった……。それで? 隊長はその人と結ばれたのか?」
無粋とは思いつつも、答えを急かす。もちろん、隊長がそうならなかった事くらい、俺にも想像はついていた。
彼女の表情に、翳りが差すのが見て取れた。
「その人ね、亡くなったの。戦地で、クランプ隊長を庇って」
喋り続けていた彼女の声が、止まる。俺の返事を待っているようにも感じられたが、何と言えばいいのか分からず、赤銅色の頭頂部を、ただ見据える事しか出来なかった。
「功績を立てようとして、周りが見えてなかったんだって。囮用炎弾を使い果たしていた事も、ボタンを押してから気付いた、って。まるでリックみたいよね」
そう言って笑う声は、ひどく乾いていた。
「クランプ隊長とミサイルの間に割り込んだその人は、操縦席に、被弾して。応答の……無いまま……って……」
搾り出したような言葉。無意識に、彼女の肩へ手を回す。強く力むその身体は、それでも微かに震えているのが感じられた。
「隊長ね、言ってたの。その人も、敵も、やるべき事をやっただけ。悪いのは、覚悟の甘かった者だ、って」
——覚悟の甘かった者……。
それは、今日の俺の事だった。
あの時、隊長に諭されてなお、動揺を拭い切れていなかった。
敵が誰であろうと。いかなる状況だろうと。目的の為に、背負ったものの為に、行動する。
その覚悟が、俺には足りていなかった。
「ミナト、」
グレアの腕が、俺の胴へと巻き付く。
「私は、貴方だけを視る。貴方だけを守る。墜ちる時は、私も一緒に。それが……私の覚悟」
真っ直ぐで、澱みの無い決意。守りたい人を幾度も失って、それでも変わらない、彼女の信念。
「……ありがとう」
言葉だけでは足りない分を補うように、抱きしめ返す。
——やるべき事を、やる。ただ、それだけだ。
【クロースター】——その名を背負った時の想いを、俺は改めて噛み締めていた。




