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01-17 強さと弱さ

挿絵(By みてみん)


 ★=——


 鉄筋コンクリートの冷たい灰色の壁。すでに閉じられた、外界と遮断する鋼鉄の門扉。今や二機だけしか残っていない、だだっ広く感じる基地格納庫(ハンガー)


 その壁際、ベンチの上、俺とグレアは並んで座っていた。


 彼女は泣き疲れたのか、俺の肩を枕に、浅く呼吸している。パイロットスーツ越しにでも、その周期的な動きが伝わってくる。彼女の滑らかな赤銅色の髪は、少し乱れていた。


『ミナト……』


 インカムから、幼さのある声が、気遣うように俺の名を呼んだが、その後の言葉は出てこない。


 だがその一言にフォーラが集約したものは察しがつく。あの日と同じだ。空から帰ってきて、ずっとこうしている。飲まず食わず、ただこうしている。


 それと、フォーラが通信連絡を切ってくれている事にも、気付いていた。基地司令への作戦報告は、通例に従うなら、二番機である俺の役目だった。


 ——クランプ隊長が戦果を上げた事、司令に伝えないと、な……。


 本来ならその報告は、部隊長の仕事。しかし今はもう、その任から彼は解かれた。


 任務が終わるたびに、この格納庫で俺らを軽くあしらって、基地司令室へと足を運ぶ、気怠げな彼の顔が思い浮かんだ。


 当たり前にあったそんな光景が、もう見られないのだと、そう理解しようとするたびに、目頭が熱くなる。そしてまた、分からないフリをした。


 涙にして吐き出せたグレアの事を、少し羨ましく思う。弱さをさらけ出せる強さ——そういう所を。


「ねえ」


 不意に彼女から声が掛かり、思わず身体が動いてしまった。くっ付かれてる以上、俺が驚いたのを隠しようが無いのが、少し恥ずかしい。


 取り繕うように、返事をする。


「——どうした?」

「ごめんね。邪魔だよね、私」

「……ああ。昔より重くなったしな——痛っ!」


 俺の太ももに拳が振り下ろされた。


「内出血したらどうすんだよ、ったく!」

「ちゃんと加減したわよ。バカ」


 ——嘘だろ。結構思い切り殴られたぞ、今。


 もう一発やられるのは勘弁願いたいので、その声は心に仕舞った。


 彼女の拳が開かれ、その手が俺の脚をさする。


「飛ぶたびにね、いつも思うの。私も一緒に戦えれば、って」


 その口調は、孤児院にいた頃の、本心を話す時の穏やかなものだった。


「グレアは部隊で一番視野が広いんだ。奴らを相手にするなら、あの立ち位置で——」

「そうなるよう鍛えられたのよ。四年間」


 誰から、というのは、訊かずとも察せられた。


「まだ三人が訓練生だった頃にね。日々のツラさを紛らわせようと、あの人に、好きな人はいないか、って、興味本位で訊いた事があるの」


 そう言って彼女は、俺の知らない、彼のささやかな昔話を語り始めた——。



 

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