01-16 師は遠き空へ
『スケアクロウ1、反応、消失……。緊急脱出……確認、できず……』
フォーラの通達する声に、沈痛な様子が窺えた。どこか俺のことを慰めるような口振りでもあった。
束の間の静寂——。
俺らは軍人だ。自身の死も、部隊の誰かの死も、常に想定している。覚悟もしている。
だがその意思に反して、俺の視界は熱く、潤み、ぼやける。
それでもなお、二つの機影からは、目線を逸らさなかった。
奴らは、戦闘を続行する気配も見せず、ただ並んで浮雲の下をなぞるだけ。
《……なんだ。脱出しなかったのか、隊長は》
リック——いや、機械による合成音声は、無線を通し、そう呟いた。
《興が削がれたぜ。兵装の残りも少ないし、今日は帰るとするかァ》
「なっ!?」
——逃げるだと? 隊長を墜としておいてっ!
西へと進路を取る奴らに向け、俺は操縦桿を——
〈ミナト、撤退よ〉
握った手が、止まった。
「何言ってんだよ、グレア! 奴らを逃してたまるか! 隊長の仇討ちだって——」
〈スケアクロウ隊のっ!——指揮管制は、私にあるはずよ。従いなさい、スケアクロウ2〉
その声は平静を装うが、彼女の本心は容易に読み取れた。
ああ。グレアも気持ちはきっと同じだ。今すぐにでもカラス共に飛び掛かって、噛み付いてやりたいんだ。たとえ、勝ち目が無かろうと。
でもそれは、隊長の遺志じゃない。
グレアは、それを分かって、俺を止める役目を、請け負ったんだ。「守れ」と言われた約束を、忠実に果たそうと、しているんだ。
「…………了解」
長い沈黙の後、俺は小さく応えた。
《ミナトォ!》
協定無線から、喧しい声が届く。だが、もう心には届いて来ない。
《その背中の星、次にお前と会う時まで預けといてやらァ! 他の奴に墜とされんじゃねェぞォ!》
そう言い捨てて、レイヴン達の白い機影は、加速する。やがて、青空の果てに、見えなくなった。
〈——敵影、探知圏外に離脱。……ミナト、帰りましょ……っ……〉
「……ああ」
グレアの嗚咽を、俺は聞かなかった。彼女は作戦終了まで、感情を殺して、指揮をやり遂げたんだ。間違いなく、立派な軍人だった。
下を見ると、未だ岩壁から空へと伸びる、狼煙が一つ。風の止んだ山間部から、真っ直ぐ、真っ直ぐに、伸びていた。
それへ身体を向け、狭い機内で、小さく、強く、敬礼する。
(テメェならやれる。そうだろ、クロースター)
俺に託された彼の最期の言葉が、この胸に染みとなって、深く、深く刻まれていた。
青と灰の境界。それを別つ黒煙。耳に響くのは、ただの少女の哀哭だけだった——




