表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/40

01-14 灰色の世界

挿絵(By みてみん)


『ミナトっ! 敵機が——』

「分かってるっ!」


 焦るフォーラに短く返し、なおも下降しながら加速する。


 遊覧飛行中のホワイト・レイヴン。彼我の距離、四千メートルを切る。レーダー波式なら充分射程圏だが、それを無効化するカラスが相手。元より熱源追尾のミサイルしか積んでいない。その有効射程まで、残り千と少し——


《ミナトォ! テメェも電子戦機かァ!!》


 奴の怒気が混じる機械ボイスが、俺の鼓膜に突き刺さる。


 黒鳶の格納室を潰した分、搭載した電波妨害ジャミング装置——そのお陰で、射程条件はイーブン。


 だが相手は可変翼。速さ競争ではコチラが不利。景色から色彩が薄れるほどエンジンをぶん回しても、その距離はじわじわと縮まる。


 だが——もう————


 ——ピピピピピピ

 ——ビーッ、ビーッ、ビーッ!


 敵を射程に捉えた通知音と、ミサイル・アラートが、ほぼ同時に鳴り響く。


発射(FOX2)っ!」


 横に倒した操縦桿のボタンを、強く押し込んだ。スピンする視界の中で、自機の速さも乗せた超高速の噴煙が放たれたのを認め、即座に機首上げ(ピッチアップ)し下降旋回の機動。これで敵の攻撃は回避できる。


 急制動。


 瞬間、世界の全てが灰色になった。


 ——ヤバい、今俺はどっちに飛んでる……?


 正面も、左右も、上下も。全てが同じ。どちらが地面で、どちらが空かを、見失う。


 空間識失調(バーディゴ)——戦時の飛行機乗りが、墜落、あるいは撃墜される、その大きな要因となる症状。


 ——これはもう水平姿勢か? 目の前にあるのは雲か? 地表か?


 分からない。何も信じられない。あるのは、にび色だけ。計器も、指先も、身体も、思考すらも——


『減速、ピッチアップっ!!』


 その叫びに、背中を蹴られた。


 両の手が、彼女の言葉通りに動く。指示と操縦、その連動を、何千何万と繰り返して来たからこそ、成し得た事。


 背部・腹部の空力エアブレーキが限界まで開く。脚が持ち上がるような感覚。頸部をヘルメットが圧迫するが、それでもなお血液が脳から薄れ、周辺視野が狭まる。


『ストップ!』


 遥か遠くから聞こえたような言葉を合図に、手の握りを緩めた。


 胸が小刻みに上下する。酸素の不足を身体が感じる。頭の奥でチカチカと明滅する。眼の中へ次第に色が戻ると、俺は山嶺すれすれを飛行していた。


「助かった、フォーラ……」

『ヒヤヒヤしたよぉ』


 ため息でも出そうな彼女の口調。その直後、正常に戻りつつある俺の頭が、声を放つ。


「っ、状況は!?」


 共有ビジョン。敵の数は——未だ三つ。内一機が黒煙を上げながらも、墜ちずに飛んでいる。


 ——くそっ、やっぱり一撃じゃ無理か……!


 先のミサイル——ACM-2は、火力を代償にし飛翔速度を増した兵装。今までの使用でも、墜とすには追撃が必要な場面が多かった。


 残りの二機は——損傷機の後ろへ回るような軌跡を描く。


 ——俺を、追ってない……? 一機も……?


〈ハッ! 上出来だぜぇ、海坊主(﹅﹅﹅)ぅ!〉


 あらん限りに張った掠れ声。


 俺は、バイザー左のウインドウへ注視する。


 煙を吐く白鴉の対面。ひとつの黒鳶が真正面から向かい合う——ヘッドオンの位置に立っていた。



 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ