01-12 夢を追う者
正面、俯角を広げた隊長機が、下方を潜ろうとするカラス共へ曳光弾の軌跡をばら撒く。
対する三羽は、トライアングル型に背中を預け合う連携姿勢を取り、銃砲のライフリングを描くかのような機動をしてみせた。
〈チッ、ありえねぇ飛び方しやがって!〉
《ウハハハハ! どうよどうよ、この芸術的な飛びっぷりィ!》
聞こえていないはずの悪態に、気味の悪い機械音が協定無線を開きっぱなしで返す。
《俺が一人で三機分を統制してるから成し得る動きだぜィ! だから、こんな事も出来ちまうッ!》
自慢げに嘲りながら奴らは螺旋機動のまま上昇。俺と隊長の間に割って入り、まるで蕾が花開くかの如き挙動で三方向へと飛散する。
「くっそ! 航空ショーじゃねぇんだぞっ!」
捻れながら飛来する一機を避けるべく、螺旋機動で射線から逃れる。
〈隊長! そっちに二機!〉
〈りょーかいっ!〉
グレアと隊長の短い応答。天地が逆転した視界、一番機の背後に纏わり付こうとする機影二つ。隊長は追尾を振り払うべく、減速しながら大きく不規則に蛇行する。
すると、尾翼に黒い五芒星のついたレイヴンが早々に彼の追跡を諦め、避退する。
その動きに、違和感——言語化できない不気味さを、直感した。
「隊長の後ろに一機! 警戒!」
俺の声に隊長が了承するとほぼ同時、残った一機がミサイルを発射する。
——なんだ……? あの位置関係で撃っても、当たるわけがない……。
あの予感は杞憂だったのか。回避機動に入るのを見ながらそう思った。その時——
《ボンッ!》
網膜に飛び込む青白い閃光。
次いで、大気を震わす爆音。
衝撃波が襲い機体を揺らす。
目蓋を閉じてもなお、眩しく感じる。
高音域の耳鳴りが、鼓膜を叩き続ける。
制御を保つべく、操縦桿にしがみ付く。
「くっ……! 隊長っ!」
〈——なんとか無事だ。あーっ、ちくしょう……。今ので電子機器がイカれやがった。これだからデジタルは嫌いなんだ……〉
平静を装っているが、呼吸が荒いのが分かる。
〈今の光……まさか核弾頭ミサイル!?〉
『グレアの推測は概ね——99.2%正しいよ』
彼女の言葉にフォーラが間髪入れず返す。
〈そんなの、国際条約違反じゃないっ!〉
〈ハッ……。AWACSを先に撃墜して、作戦本部との連絡手段を絶ったのは、これが目的か……〉
今までカラス共に追われた航空機が一機も帰って来なかった理由——その片鱗が、明らかになった。
《サプラ〜イズッ! 近接信管の超小型核兵器でしたァ!》
ゲラゲラと下卑た笑いを飛ばす無機質な声。それに対し、隊長が協定無線に切り替え、怒鳴る。
〈テメェ、座学で寝てやがったな?バカヤロウ!〉
《ウハハッ! 起きてたさ! 戦地での核弾頭使用は条約で禁止されてる、ってヤツだろォ?》
耳障りな口調が、なおも続ける。
《法も!律も! 敵も!味方も! 善も!悪も! そんなもの俺には関係無ェ! 墜として、墜として、墜として。そうして、手柄をあげる! 活躍する! この世に俺が生きた証として! 俺の名を世に残す為にィ!》
それは、いつか彼が語った夢——
(世界中のみんなに、リックという男がいた、って事を覚えていて欲しいんだよ!)
変わっていない。変わっていなかった。
それが、逆に悔しかった。彼はその夢のために、狂ってしまった。道を踏み外してしまった。もはや人では失くなってしまった。
だが、今はそんな感傷に浸っている時では無い。
光が収束し、俺の目がようやく機影を見つけた。
「隊長、撤退を!」
一番機は、翼部をどこか損傷したのか、飛び方がぎこちない。
〈気にすんな、まだ飛べる〉
「けど——」
〈ミナト、俺が囮になる。お前がやるんだ〉
「っ、拒否……!」
〈隊長命令だ。やれ!〉
その指示に、返事は、しなかった。
奥歯が砕けそうなほど噛み締め、未だ隊長機の後ろを付け狙う、凶弾を撃ち込んだ白鴉を睨み、黒鳶を加速させた。




