01-11 迷いと決意
〈ボサっとすんな、クロースター!〉
通常回線に切り替えたクランプ隊長が吼えた。彼の機影は、俺を置き去りにして、ぐんぐんと敵との距離を詰めていた。
「け、けど隊長! リックが——」
〈リックはもう死んだっ!〉
躊躇いなく吐かれたその言葉が、劈く。
〈いいかミナト! アレはリックの記憶かもしれねぇ。人格かもしれねぇ。けどなぁ——〉
一番機の機首が、三羽を睨むように下を向く。
〈奴にもう心は無え! ありゃAIだ!〉
「まだそうと決まったわけじゃ——」
〈そうと決めつけろ!!〉
全身が痺れるほどの怒号。
〈空で迷うな! 迷った奴から墜ちる! あの日に背負ったもんを復唱してみろ、クロースター!〉
——あの日……。
そうだ。リックを失ったあの日、俺は誓った……二人分の、想いを背負うと。
〈ミナトっ!〉
グレアの、気丈に振る舞うも揺らぎのある声。
〈さっさと隊長を追いなさいよ! じゃないと私がカバーに入るわよ!〉
「バカ言うなよ、それじゃ作戦が崩れるだろっ!」
茶化すように答えた俺の声も、まだ僅かに震えていた。しかしそれでも、少しだけ気を持ち直した。
そうだ。迷えば、隊長もグレアも危険に晒す事になる。俺がやるべきは、生き延びて、カラス共を、墜とす。そのために、飛び続けること。
左手を伸ばし、スロットルを全開にする。身体に掛かる加速度が、俺の迷いを吹き飛ばしていく。
〈OK! オウル・ビジョン、共有開始!〉
〈了解〉「了解!」
彼女の合図と俺らの応答。その直後に、バイザー左下に新規ウインドウが展開される。
そこに投影されるのは、戦域の俯瞰視点映像。山の起伏に沿う陰影、俺と隊長の黒鳶。そして、光を反射する白い前進翼機が三つ——そのそれぞれに、赤い正方形のマーカーが追従する。
グレアがバイザー越しに見ている景色を、AIFAによる演算処理と高速データ共有により、ホワイト・レイヴンを視覚的に探知するシステム——オウル・ビジョン。
空中警戒管制機が随伴できない特殊殿軍隊だからこそ、彼女がスケアクロウ隊の眼となり指揮を取る戦術。
〈ハッ、今日もいい眼してんなぁ、グレア! 老眼の俺でも敵が良く見えらぁ!〉
〈私の視力は関係無いですし、こないだの検診結果で隊長が両眼とも2.0なの知ってますからね!〉
そんな軽口に、俺の心も軽くなる。きっと二人の内心にも葛藤があるのかもしれない。けれど今は、迷わず、やるべき事に専心する。ただ、それだけ。
《ウハハハハ! そう来なくっちゃなァ!》
馴染みの無い声色が、未だ協定無線を通して煽り立てる。
《隊長も、グレアも、そしてミナトもォ! みんな俺の星に変えてやるよォ!》
〈囀るな、小鳥が〉
低音の罵声と機銃掃射の騒音が、この決戦の開幕を告げた。




