01-10 おしゃべりな男
静寂。俺の放った問いかけ——それを引き鉄に、この空域にいる皆の思考が止まったかのような。
俺も、クランプ隊長も、すれ違った時の姿勢のまま直進を続けていた。遥か上空を行くグレアは黙ったまま。白いカラス達もまた、進路を変える様子は無い。
空気を焦がす雑音だけが、鼓膜を震わせていた。静止した何もかもは、やがて彼の声で破られる。
《その声……どっかで聞いたなァ》
協定無線を介して再び響く、機械的で落ち着いた
声色。だがやはり、語尾を伸ばすその独特な口調に、かつての親友との会話が重なった。
「リック! 俺だ! ミナトだ!!」
口を突いて出た俺の言葉を〈バカ、名乗るな!〉と隊長が咎める。
《ウッハハハハ!》
知らない声から発せられる、特徴的な笑い方。
《忘れるわけねェだろ! なァ、ミナトォ!》
——ああ、間違いない。この感じ。リックだ。
機体をゆっくりと旋回させ、水平姿勢に戻した。隊長はその俺の後ろに続く。
〈ウソ……リックなの……?〉
グレアの動揺した様子が伝わってくる。俺だってまだ信じられていない。何せ、リックはあの時——
——なんで、生きてる……?
唐突に、肺が冷える。
——それに、どうしてホワイト・レイヴンに乗ってる……?
当然浮かぶはずの疑問が、電池の切れ掛けた時計のように、数刻遅れで次々に湧いて出た。
——あの状況から、どうやって助かった? なぜ某国側に付いてる? グース隊とガル隊を全滅させたのは、リックなのか?
とめどない思考の洪水。速さを増す疑念の渦。
それらを堰き止めたのは——
〈テメェ、本当にリックか?〉
隊長の一言だった。
《ウハハ! クランプ隊長までいんのかよ! 懐かしいなァ!》
隊長の名を知ってる。やっぱりリックだ。
そう感じた、次の瞬間——
《俺さァ、あの時死んじまってよォ、》
軽く放たれたその言葉に、耳を疑った。
——死んだ……? 今、そう言ったのか……?
《けど機体ごと某国に回収されてさッ! 脳と脊髄は使えそう、ってんで、このW-20に移植されたんだよ!》
彼の話に、頭が追いついていかない。理解を拒絶している。
《この戦闘機が俺の新しい身体ッ! そんで、頭脳はAIが補強してくれてよォ! 最ッ高に飛びやすいわけ! これなら何機でも墜とせるぜ、俺!》
何を言ってる? リックは何の話をしている?
聴こえてるはずの単語が、文章が、まるで異界の言語のように思えた。
〈ハッ!〉
鼻で嘲笑う声。知らない世界に置き去りにされた今は、それがひどく頼もしく聞こえた。
〈体も心もカラスに喰われちまったか。憐れだな、ヒヨコ頭ぁ!〉
隊長の謗りに対し、耳障りな甲高い笑いが返ってくる。
《隊長ォ! 俺にはもう【マグパイ】ってTACネームがあるんスよォ! いつまでもヒヨコ扱いされちゃ困るぜェ!》
〈ハッ! マグパイたぁ、いいセンスしてやがる、ぜっ!〉
遠い前方で急旋回を始めた、白い三機——それを目掛け、一番機が俺の横を猛スピードで過ぎ去っていった。




