01-09 その背に負うのは
スロットル・レバーを押し出す。背部のエンジン駆動音、アフターバーナーが大気を焼く。身体全体が座席へと押し付けられる。
一番機を追い抜き、先頭に立つ。クランプ隊長は俺の後ろをカバーする距離を保つ。四番機のグレアは速度を維持したまま高度を上げる。
対カラス戦のために、修練を積んできた陣形。
視界の奥、夜空の星ほど小さかった光る機影が、徐々に形を帯びてくる。その数は、一、二——
「目視、2敵機——!?」
違う。三機だ。忘れもしない白い前進翼機。その影が、山脈の上で、三つ連なっている。
「三機! 3敵機!」
〈んだと!? 奴ら、ひな鳥でも産みやがったのか!?〉
隊長が悪態をつく。距離が縮まるにつれ、その数は明確になった。間違いなく、三羽。
〈敵が三機なら、私も——〉
「ダメだグレア! 訓練通りやれ!」
彼女の発案を、即刻諌めた。不測の事態。だからこそ、付け焼き刃の対処は危険だ。わずかに間を置いて、グレアは作戦続行を了承した。
三羽烏が、ゆっくり旋回し、鼻先をコチラへ向けた。双方で飛行高度に差がある。どちらがミサイルを発射しても、直撃する事は無い。
すれ違ったのちに、背中の奪い合いとなる。
そこから先は、機体性能と知識・技能の勝負だ。
奴らは無人の旧式AIで管理された機体。相互連携が不得手なのが欠点。そこを突き、順番に仕留めるだけ。一機増えても、やるべき事は変わらない。
「スケアクロウ2、交戦!」
〈スケアクロウ1、交戦〉
距離2,000m未満。奴ら三機を熱源探知し、HUD表示が四角く囲う。左手でレバーを引き、急減速。操縦桿を横に倒し、背面飛行の姿勢に。すれ違うと同時に下方旋回で背中を取る構え。
天地の翻った景色。首をエア・クッションで圧迫されつつも、じわじわと頭に血が昇る。
その時だった。
カラス共の機体、斜めに開いた二本の尾翼。そこに、以前には無かった、黒いエンブレムが。
右端のには、ダイヤ型。反対の機には、六芒星。
そして、中央。先頭を飛ぶレイヴンには——
「——五芒星……?」
見間違い……じゃない。お世辞にも綺麗とは呼べない、歪な星のマーク。
刹那。逆さを向いた俺の黒鳶。低空を嘗める奴の白鴉。交差する、双方の星。
《オイオイオイ!》
協定無線。機械的な男性ボイス。
《星型の紋章って、俺の真似かァ!?》
低く奇怪な笑い声が機器越しに響く。
だが、その口調を、俺は覚えている。忘れるわけが無い。だって、それは——
「リック……なのか……?」
俺は旋回する事も忘れ、協定無線へと切り替え、呼び掛けていた。




