01-07 良いニュース
[第999航空特殊殿軍隊、緊急発進要請! 至急格納庫に集合せよ! 繰り返す——]
午前十時になる少し前。基地内連絡放送を、俺とグレアはハンガー内のベンチに並び、聞いていた。すでに二人ともパイロットスーツを装着し、ヘルメットも準備済みだった。
グレアがゆっくりと空気を吐き出す。
「クランプ隊長の予想通りね」
「当たるんだよな、あの人のそういう勘は」
俺は立ち上がり、大きく伸びをする。
「さっ、いつもと変わらない、大事なお仕事の時間だ。頑張ろうぜ、グレア」
突き出す拳。
「そうね。いつもと変わらない。守れるものを守りましょう」
小さく微笑み、その拳を俺のに軽くぶつけた。
★=——
〈クロースター、ナイトオウル、無線は聞こえてんな?〉
「問題なし」〈良好です〉
見慣れた窮屈な機内。透明樹脂製の天蓋より上は、青く蒼く、抜けるような空が広がっている。
いくつもの市街や山間を見下ろす同盟国の領空、その高高度を北北西へ向け、音速を超えて飛行するスケアクロウ隊の三機。その隊列は、あの日から何ら変わっていない。
——いつも通り。いつも通りだ。
自らに暗示をかける。作戦開始前のルーティン。こうする事で、操縦桿を握る手の震えが止まってくれる。
〈おいテメェら、〉
隊長の何やら楽しげな口調。作戦中にその声色を聞いて、楽しくなった試しが無い。
〈良いニュースと悪いニュースがあるんだが、悪いニュースから言わせてもらう〉
「あの、選択権は?」
〈ねえよ〉
俺の要望は空振りに終わった。
〈護衛対象のグース隊・ガル隊、その両部隊を取り仕切ってた空中警戒管制機からの連絡が途絶えた、と本部様から入電だ〉
言い終わりに渇いた笑いを乗せた隊長だったが、俺もグレアも絶句していた。
音速で救援に向かう俺らにAWACSは随伴させられない。ゆえに、現地での管制・指揮は護衛対象に連れ添う管制機が頼りだった。その思惑が、潰えたのだ。
〈そんで、良いニュースだが、〉
隊長が続ける。
しかし、その内容が何か、もはや俺の中に確信があった。随伴する八機を相手取り、なおかつ彼らの抗戦を振り切って管制機を墜とす程の敵——
〈AWACSからの通信——その最後に、こう言ったらしい。「白い機影が——」とな〉
脊髄の下から上へ、ビリビリと何かが駆け上がった。二年間追い続けた標的が、向かう先に、いる。
目の奥で、記憶の静止画がいくつも瞬く。今俺を襲っているこの感情が、何という名なのか分からないし、解ろうとも思わない。
しかし、俺の意志とは無関係に、唇は歪み、口角は引き攣るように上がっていた。




