01-06 弱き者たち
明日が決戦になるかもしれない——そうクランプ隊長に告げられた晩、俺は消灯後も自室のベッドに腰掛けたままだった。
足元をぼんやり照らす非常灯と、カーテンの隙間から差し込む月光。普段と変わらないその様相が、何故だか焦燥感のようなものを掻き立てた。
『ミナト、』
ベッド脇から幼い声が。
『眠れないの?』
机上で充電中のインカムから、フォーラが心配そうな様子で話しかけてきた。
「……ああ」
言葉少なく、けれど素直に返した。
ホワイト・レイヴンとの戦闘シミュレーションは、もう何度もこなして来た。だから戦う事への恐れはそれほど無い。俺を眠れなくさせるのは、あの日の無力感だった。
あの時に今の腕前があったら、カラス共を蹴散らせていた。あの時にもっとリックから離れた位置を飛んでいれば、彼は墜ちずに済んだかもしれない。
たら。れば。たら……。れば……。そんな無意味な想定が、浮かんでは消え、湧いては散る——
『子守唄でも歌おうか?』
「……いや、遠慮するよ」
彼女の無邪気な提案に、思わず苦笑した。ほんの少しだが、気を紛らわせてくれた。
——コンコンッ
戸を控えめに叩く音。薄暗い室内で、その方を見遣る。
「ねえ……まだ起きてる……?」
か細いグレアの声が、壁一枚を隔てて聞こえた。
「ああ。起きてるよ」
立ち上がり、感覚を頼りに歩み寄る。
扉を開けると、光を呑み込む赤銅色の毛を後ろで束ね、白い枕を大事そうに腕で抱えた彼女の姿があった。
「ごめんね。少し、声が聴きたくて……」
伏し目がちに、そうポツリと溢した。
あの日から、以前よりも気丈に振る舞うようになった彼女だが、決してツラさを乗り越えられたわけじゃなかった。
耐え切れず、堪え切れなくなると、時折こうなる。だが、想いを吐露する事は、決して無かった。何を抱え込んでいるのかは、絶対に見せなかった。それが彼女の強さでもあり、あるいは弱さでもあるのだろう。
「大丈夫だから」
俺はいつものように、グレアの背中に手を回し、引き寄せた。腕や服越しに、彼女の体温や吐息を感じる。強張っていたその身体が、少し弛緩するのが分かる。
軍の図書館で読んだ本に、人は人と触れ合うと、ナントカ言う脳内物質が分泌され、それによって安心感を得られるのだと。何度か実践する内に、彼女も抵抗しなくなったし、俺自身も心が落ち着くのを実感していた。
やがてグレアは手でそっと俺の胸を押した。
「……ありがとう。もう大丈夫」
「そうか。良かった」
『なんでそこで押し倒さないかなぁ』
「「フォーラっ!!」」と二人同時に吠えた。顔を見合わせ、どちらからともなく笑い声を上げた。




