01-05 バロニス・クランプという男
いつも通り無遠慮に隣へ腰掛けたクランプ隊長。盛られたカレーは、俺の皿の半分ほどしか無い。
「隊長、また少食になってません?」
「テメェの量が異常なんだよ。なあ?グレア」
「ミナトは多すぎ。隊長は少なすぎ。二人とも成人男性の適量じゃ無いですよ」
目を瞑ってそう返した彼女だが、隊長の「手厳しいお母さんだぜ」という揶揄いに眉根がピクリと動いたのを、俺は見逃さなかった。
「それはさて置き、」と隊長が仕切り直す。
「空軍の上層部も、さすがにカラス共の狼藉に手を焼いてる。爆撃機、その護衛機、そして迎撃機——その全てが悉く奴らに喰われてっからなぁ」
彼はつまらなそうな顔でスプーンを頬張る。
「んぐ。幸い——と言っていいのか分からねぇが、奴らは対空装備しか積んで来ない。制空戦闘専門、っつーわけだ」
「にしては、撤退する航空機を執拗に追い落としますよね」
グレアの指摘に俺も同意する。
「奴らに出会って帰ってきたヤツは俺らだけ……。そのせいで、奴らの正確な情報がなかなか掴めないですよね」
「だな。帰ってきた陸軍からの報告も、曖昧なもんばかり。だからこそ、元ヴァルチャー隊の俺たちが奴らと当たる事を期待されんだよ」
あからさまに呆れた顔を横に振ってみせる隊長。
思えば、隊の名前をいち早く変更したのも、こうなる事を見越していたのかもしれない。あのまま遊撃隊として任務を続けていたなら、充分な対空装備も持たずに敵地で奴らと遭遇し、最悪全滅していた可能性も高い。
隊長はその振る舞いから適当な人間に思われがちだが、そういう先読みと、何より、俺らへの気配りは欠かさない人だった。
いつだったか将校達の立ち話で「ヴァルチャー隊のクランプ大尉が、上官に逆らい任務を断り続けていた」というのを聞いた。俺らの成長を待ち、危険な任務を避け、軍内での評価を落としてでも、安全度の高い作戦を初任務に選んでくれていたのだ。
だからこそ、ホワイト・レイヴンとの邂逅は不運だった。きっと俺やグレアと同じくらい——いや、もしかしたらそれ以上に、リックを失った悔しさや責任を感じていたのかもしれない。
でなければ、隊名に〝カラスを脅かす者〞を意味する【スケアクロウ】などと付けないだろう。
「——おい、ミナト。聞いてっか?」
その呼び掛けで、思案から引きずり戻された。
「え? あ、すいません、ボーッとしてました」
隊長に後頭部を小突かれた。グーで。
「ッッタぁぁ……」
「ったく。もう一度話すから、目ぇ覚まして耳の穴かっぽじって良く聞け」
殴られた箇所をさすりながら深く頷く。
「いいか。明朝にグース隊とガル隊による合同強硬偵察任務が開始される。帰投予定時間は1100。飛んで帰ってくるだけだが合計八機での作戦……カラスが狙ってくる可能性は高ぇ」
「じゃあ——」
「絶対とは言えねえ……。が、すぐ出撃できるよう備えとけ。いいな」
俺へと向けた隊長の視線からは、普段の気怠さが感じ取れなかった。決戦を予期している——そんな眼差しが、俺の心を恐れさせ、怒らせ、昂らせた。




