01-04 二年間の犠牲
「第999航空特殊殿軍隊、か……。名前を変えてから、もう随分と出撃させられたよな」
グレアの正面に着席した俺は、カレーに匙を突き立てながら言った。
俺らの長テーブル以外にも食事中の隊員は居るが、互いの話し声が聞こえない程度には散らばっていた。
「部隊の主目的が他の航空隊と異なるからね。酷い時なんか、一日に三度も緊急発進——なんてこともあったかしら」
目線を皿に向けたまま、赤銅色の横髪を耳の後ろへと掛ける。湯上がりのせいだろうか、その仕草が妙に色っぽく見えた。
俺は舌に残る熱を冷水で流し、一呼吸置いてから返す。
「あの時は本当に大変だったよな。最後には兵装の補充も無く、作戦空域間を直行だったし」
「そうね。けどその甲斐あって、手遅れになる前に救助できた」
「……だな」
感情の篭った彼女の言葉に、俺は俯きながら同意した。
殿軍——それは、敵に追われる味方を援護したり、あるいは代わりに囮になる部隊の事だ。劣勢であるのが確定的な戦局へ飛び込まねならず、何より一分一秒数コンマを争う迅速さが問われる。
本来であれば、Yog-25のような脚の速い機体が適任だが、それではせいぜい撹乱止まり。敵の撃墜まで至るのは難しい。
何より問題なのは、あのカラス共だ。
この二年間で、平定連合国側は守勢に転じてしまった。エリア447で勃発した当時のヴァルチャー隊と、某国に開発された次世代実験機との戦闘……。あれ以後、ホワイト・レイヴンのいる戦域で制空権を奪うのは不可能と化し、それが戦局を大きく捻じ曲げた。
出逢ったが最後、あの化け物鳥は執拗に戦闘機を追い回し、喰い荒らし、骨まで貪る。
奴らと会敵して無事に帰還できたパイロットは、三人だけ……。そう。俺、グレア、そして隊長。他は皆、全滅している。
「この基地も……広くなったよな……」
「…………そうね」
彼女から、力の無い声が返ってきた。この食堂もリックが居た頃は、もっと賑わっていた。
大声で戦果を自慢する奴。酔っぱらって突然歌い出す奴。故郷にいる家族や恋人の話をしてた奴ら。
もうその顔も、声も、名前も、思い出せない。
異なる部隊で、違う作戦で、交流する事も無い。戦時中だ。当然起こり得る別れ。それでもやはり、淋しさと哀しさは湧くのだと、思い知らされた。
だからこそ、俺もグレアも、仲間の背中を守る、あの白い凶鳥を墜とす——その想いで、飛び続けている。
鳶が鴉を狩る。その為だけに用意し、訓練した。対レイヴン専用の——
「おう。まぁた辛気臭ぇツラで飯食ってんなぁ」
ガチャン、と食器を置く音と共に、嫌と言うほど聞いた野太く掠れた声が、俺の横から掛かった。




