01-02 アイツの代わり
航空基地に帰ったスケアクロウ隊は、任務成否・戦果・弾薬や燃料の費用など諸々を含む事後報告を済ませ、俺は一人格納庫へと立ち寄っていた。
整然と並ぶ黒鳶。三羽になってから、もう二年が経過していた。あの日帰らなかったリックの事は、今でも忘れられない。
『ミナト』
インカムからフォーラの声が掛かる。あの頃よりも、彼女の口調は自然で明るく幼くなった。
「なんだ、フォーラ」
俺は無感情に返事した。
パイロットの精神的支柱も必要だ、とか何とかで、航空機用AIにアップデートが為されたのが、一年と少し前。使用者の会話パターンをAIFAが学習し、そのパイロットにとって一番親しみやすい人格や声色へと自動変更される——らしい。
その結果、俺のフォーラは何故か幼少期のグレアみたいな喋り方になってしまった。
『新しいミルバスにはもう慣れたかしら?』
「あー、ぼちぼちかな」
そう返しながら、コクピット脇に「02」と記載された自機を見上げた。
Xi-37をベースに、前翼の拡張。機体下部の武器格納室を撤去し、代わりに電子妨害機と空力ブレーキの増設。エンジンの推力偏向ノズルは、可動域をさらに五度ほど増した。飛行速度を犠牲にし、とにかく空戦での機動力——格闘性能の向上を目的としたチューンナップ。
俺の専用機、Xi-37D。
通称【ダンシング・ミルバス】。
「もう対地任務には使えないけど、対空はフォーラの知る通りだよ」
『この二年で撃墜数が二十九……大したものよね、まったく』
わざと物々しく述べる彼女に、俺は乾いた笑いで返した。
黒い垂直尾翼。そこに白で描かれたエンブレム。右下から伸びる鳶の脚、そこから四本の指と爪が拡がる意匠——遠目から見れば、まるで白い五芒星のように映る【鉤爪の星】……。
「アイツに代わって、活躍を続けてきた。この尾翼の紋章と共に。だから——」
「まさか、その手柄は全部リックのものだ、なんて言わないでしょうね」
声のした方を見ると、言葉を遮った者——赤銅色の長髪が、仁王立ちしていた。
「悪いか?」
「悪いわよ」
刺々しく言いながら、グレアはコチラへと歩み寄ってきた。
俺の背が伸びたため、彼女の頭頂部は俺の胸元くらい。顔立ちは、まぁ、美人になったが、目付きは前より鋭くなったか。シャワー後なのか、白シャツの下にインナーが僅かに浮き、シャンプーと彼女の香りを混ぜた熱気を漂わせていた。
真横に並び、その肩を俺の腕へと押し付けながら言う。
「リックの事を偲ぶのは構わない。けれど、戦地で戦ってるのは彼じゃ無いのよ」
「……そうだな」
『素直じゃないわねぇ。頑張ってるミナトが好きよ、って言っちゃえばいいのに!』
スピーカーに切り替わったフォーラが指摘する。「うっさいわよ、このクソAI!」と顔を真っ赤にして罵倒するグレア。そんなグレアとグレアみたいなAIの織り成す日常会話を、俺はいつも通りの苦笑いで聞き流すのだった。




