01-01 烏を追う者たち
——ビーッ、ビーッ、ビーッ!
『ミナトっ!』
呼び掛けに応えるように、操縦桿を手前、そして右へ引き倒す。視界も重力の方向も、グルリと転回する。慣れ親しんだ螺旋機動の中で、頭上数m先を噴射炎が通過するのを確認した。
——ビーッ、ビーッ、ビーッ!
『Cっ!』
合言葉を受け、複雑な操作手順を的確にこなす。フレアの放出。スロットルを引き絞り急減速。さらに機首上げし、機体を垂直に立て、空中静止。
あの日、奴が見せたクルビットの類型——コブラ機動。
追尾ミサイル、そして黄色い翼端の敵機が下方を飛び去ると同時に、水平姿勢へと戻す。ちょうど黒鳶の視線正面に、捉えた。
「発射」
右翼下から放たれた飛翔体が、すぐさま最高速度へ達する。それは戦闘機最速を誇るYog-25に、回避判断すらさせる間もなく、直撃。爆発。
発射直後に加速、接近し、飛行制御を乱した黄色の燕へ、追撃の豆鉄砲を食らわせた。
『ナイス・キル、ミナト!』
喜びの感情を乗せた幼さのある声が耳に届く。火を噴きながら森林地帯へ堕ちていく敵機を見下げながら、俺はひとつ細く息を吐いた。
〈おい、クロースターぁ!〉
無線越しに呆れた様子の掠れ声が。
〈その兵装、カラス以外に使うな、って! これで何度目だと思ってんだ、テメェ!〉
〈三十回は聞きました、隊長〉
落ち着き払った彼女の声が、俺の代わりに返す。
「墜とせたんだからOKでしょ、隊長」
〈高ぇんだよ! そのミサイル!〉
〈ミナトの給料から天引きしましょう〉
アイツめ、勝手な事を言い出した。
「いやいや、任務成功の報奨金が出るでしょ!」
『あるいはミナトの撃墜報酬からっ!』
「黙ってろフォーラ!」
俺の叱りを意に介さず、ころころと笑い声を上げてやがる。グレアが聞こえよがしに大袈裟な溜息を漏らし、クランプ隊長も「まぁたAIFAと漫才してやがらぁ」と皮肉たっぷりに言う。
〈あ、あの、〉
割って入るように、若い男性の声。
〈あなた達が援軍に来てくれて助かった。さすがは白いカラスの襲撃から唯一生還した、ヴァル——〉
〈あー、違う違う!〉
言い掛けたところを、隊長が遮る。
〈俺たちゃもう部隊名を変えたんだよ〉
〈無事で何よりです。間に合って良かった〉
「まぁ、期待した獲物は居なかったんだけどな」
〈ちょっとミナトっ!〉とすかさず彼女が噛み付いてきた。いつものごとく平謝りで返す。
〈うっし、帰るぞ。クロースター、ナイトオウル、編隊を組め〉
隊長の指示を受けて、俺とグレアが位置につく。一番機を先頭に、右後方に俺、左後方にひとつ空きを作って、四番機が並ぶ。
〈第999航空特殊殿軍隊——スケアクロウ隊、帰投する〉
歪な三機編成が、青空に白いアーチを描いて飛び去った。




