表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/40

00-17 残された者

挿絵(By みてみん)


 ★=——


『ミナト』


 スピーカーから、俺を呼ぶ声を聞く。腰掛けた膝の間、手にぶら下げたヘルメットから。


『ミナト。最後に食事を摂取してから十四時間以上が経過しています。体力維持のため、カロリー補給を提案します』

「ああ……」


 一時間前にも聞いたようなセリフに、一時間前と同じ曖昧な返事をした。


 陽が落ち、冷え切った格納庫ハンガー。壁に沿うベンチ。何度視線を上げても、目に映るのは三機のXi-37(ミルバス)


 俺は、生き残った。


 管制官の撤退指示を聞いた。グレアのわめき声を聞いた。隊長の怒鳴りを聞いた。リックの返答は——無かった。


 三番機のAIFAは、攻撃によって機器が破壊されたのか、応答が無かった。雲に隠れ、緊急脱出ベイルアウトの可否すらも不明だった。


 カラス共は、まるで餌場へたかるかのように、彼が墜ちた位置を飛び回っていた。戦地から遠ざかる俺らを、奴らは気にする様子も無かった。お陰でこうして、無事に基地へ帰ってこれた。


 俺は、生き残った。


 なのに今、生きている実感がない。


 再び、目線を上げる。何度見ても、そこには黒鳶が三羽しかいない。


(見ろ、初出撃で戦果を挙げる願掛けだ!)


 そう言った彼の声が、姿が、遠い遠い昔のように思われる。


 ここに無い三番機。その尾翼に描かれた、落書きみたいな白い星。ヒヨコ色の短髪、初任務に浮き足立ったソバカス顔に白いペンキを付けて笑う。


「……星のエンブレム、やっぱりベタだよな……」


 誰にでもなく、小さく呟いた。俺の声は、どこか震えていた。


(逆に新しいだろ!)


 そう応えてくれる、友の声を待つように。


(これを見た戦地の友軍が言うんだ、『見ろ、白星が来てくれたぞ!』『アイツが居りゃ安心だ!』ってな!)


 未来の事を自慢げに語った彼は、ここに居ない。


 彼の望んだ未来は、永久に塗り潰された。


 思えば、ハルモニア園——孤児院にいた頃から、アイツはああだった。いつも明るくて、いつもバカやって、そのたび大人たちから逃げ回って、それに俺が巻き込まれて。


(世界中のみんなに、リックという男がいた、って事を覚えていて欲しいんだよ!)


 いつだったか、そんな夢を語っていたっけか。


 彼の望んだ夢は、永久に叶わなくなった。


「ツっ——!」


 奥歯の痛みで、知らぬ間に強く噛み締めていた事を悟った。


 それでもなお、食い縛り続けた。潤んだ眼から零れそうなモノを、押し留めるために。


『ミナト』


 彼女の抑揚の無い声が、また俺を呼ぶ。


 けれども、その先の言葉が出てこなかった。少し不思議に思い、俺はメットを手に抱え、バイザーと向き合う。


「なんだよ、フォーラ」


『……あなたと、お話がしたいです』


 それは、彼女の口から初めて聞く提案だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ