00-17 残された者
★=——
『ミナト』
スピーカーから、俺を呼ぶ声を聞く。腰掛けた膝の間、手にぶら下げたヘルメットから。
『ミナト。最後に食事を摂取してから十四時間以上が経過しています。体力維持のため、カロリー補給を提案します』
「ああ……」
一時間前にも聞いたようなセリフに、一時間前と同じ曖昧な返事をした。
陽が落ち、冷え切った格納庫。壁に沿うベンチ。何度視線を上げても、目に映るのは三機のXi-37。
俺は、生き残った。
管制官の撤退指示を聞いた。グレアの喚き声を聞いた。隊長の怒鳴りを聞いた。リックの返答は——無かった。
三番機のAIFAは、攻撃によって機器が破壊されたのか、応答が無かった。雲に隠れ、緊急脱出の可否すらも不明だった。
カラス共は、まるで餌場へ集るかのように、彼が墜ちた位置を飛び回っていた。戦地から遠ざかる俺らを、奴らは気にする様子も無かった。お陰でこうして、無事に基地へ帰ってこれた。
俺は、生き残った。
なのに今、生きている実感がない。
再び、目線を上げる。何度見ても、そこには黒鳶が三羽しかいない。
(見ろ、初出撃で戦果を挙げる願掛けだ!)
そう言った彼の声が、姿が、遠い遠い昔のように思われる。
ここに無い三番機。その尾翼に描かれた、落書きみたいな白い星。ヒヨコ色の短髪、初任務に浮き足立ったソバカス顔に白いペンキを付けて笑う。
「……星のエンブレム、やっぱりベタだよな……」
誰にでもなく、小さく呟いた。俺の声は、どこか震えていた。
(逆に新しいだろ!)
そう応えてくれる、友の声を待つように。
(これを見た戦地の友軍が言うんだ、『見ろ、白星が来てくれたぞ!』『アイツが居りゃ安心だ!』ってな!)
未来の事を自慢げに語った彼は、ここに居ない。
彼の望んだ未来は、永久に塗り潰された。
思えば、ハルモニア園——孤児院にいた頃から、アイツはああだった。いつも明るくて、いつもバカやって、そのたび大人たちから逃げ回って、それに俺が巻き込まれて。
(世界中のみんなに、リックという男がいた、って事を覚えていて欲しいんだよ!)
いつだったか、そんな夢を語っていたっけか。
彼の望んだ夢は、永久に叶わなくなった。
「ツっ——!」
奥歯の痛みで、知らぬ間に強く噛み締めていた事を悟った。
それでもなお、食い縛り続けた。潤んだ眼から零れそうなモノを、押し留めるために。
『ミナト』
彼女の抑揚の無い声が、また俺を呼ぶ。
けれども、その先の言葉が出てこなかった。少し不思議に思い、俺はメットを手に抱え、バイザーと向き合う。
「なんだよ、フォーラ」
『……あなたと、お話がしたいです』
それは、彼女の口から初めて聞く提案だった。




