00-16 それは流星のごとく
「発射!!」
言い終わるよりも早く指先は押し込まれていた。
親鳥を狙い空を駆けるカラス。それを追い、自機の左翼下から噴煙が伸びる。HUDにAMMO:0の表示が点った。
白い機影は、螺旋軌道を軽々と描いてみせる。眼光にも似た二対の後部エンジン。空よりも青く噴くアフターバーナーを、俺のミサイルは追い切れなかった。
わずかに速度を落とさせたが、それでもなお、奴はクランプ隊長の背を狙う。
「隊長! 逃げて!」
返事は無かった。隊長は一機を追いつつ、もう一機に迫られている。振り払うべく細かく蛇行機動。しかしカラスは平然とそれを追い回す。
奴の腹が開き、そこから——
「回避を!!」
反射的な叫びと同時に、ミサイルが発射された。
〈クソっ……!〉
呻きにも似た声。直撃の寸前、急速な回避機動を取った。
〈ヒヨコぉ!〉
躱しながら、隊長がリックに向け叫ぶ。
〈とにかく逃げろぉ!〉
俺はその指示の意図を掴めぬまま視線を上げた。
〈リックぅ!〉
今度はグレアが叫んでいた。俺の目が、三番機を捉え、そして、理解した。
ミサイルを撃ったレイヴンは、隊長を追っていない。いや、追わなかった。あの攻撃の目的は、隊長が尾けていたもう一機を自由にさせ、かつ星付きの若鳥を二羽で追い詰める事——
「リック!!」
逃げ回る黒鳶に向け、俺も叫んでいた。
だが、続く言葉が出てこなかった。適切な対処の指示が浮かばない。浮かぶわけが無い。あれだけ俺を痛ぶったカラス。それが二羽、背後から。
彼の至近にいる敵機から、ミサイルが放たれる。
口を開けた。音が出ない。何も言えない。目線だけが追う。目蓋の裏が熱い。
〈ぐゥゥゥゥッ!〉
喉の奥から搾り出すような友の声。咄嗟の急減速機首上げ——
爆発。
右エンジンが煙を上げている。爆風に煽られ、鳶は空を見上げたまま身体を捻られる。尾翼の星が、儚く流れる。
もう一羽が、追い討つ。二発目。翻り、無防備な若鳥の腹を、卑しく啄むように——
爆発。
弾かれたように、縦回転しながら、その高度が、徐々に、徐々に、落ちていく。
緊急脱出しろ! リック!
隊長が彼の名前を呼ぶのを、久し振りに聞いた。だが、その声に現実味を感じられずにいた。無線の音声ではなく、俺が頭の中で作り上げたような。まるで、白昼夢を見ているような。
リック!! リックぅぅ!!
グレアの呼び声と泣き声が混ぜこぜになったような悲鳴。それすらどこか、遠く、朧げに聞こえる。
黒い鳶が、くるりくるりと、煙を纏う。尾翼の星が、ひらりひらりと、流れていく。
今一番聞きたい友の声は、いくら待っても聞こえてこない。呼び掛けたくても、喉が開かない。
俺の右手が、無意識に操縦桿から離れ、その星を掴もうと、伸びる。だが、透明な壁に阻まれた。
呼べず。掴めず。ただ、見ていた。
大空を目指したはずの小さく不細工な白い星は、足元を覆う雲の海へと、飲み込まれていった——




