00-15 長く終わらぬ百秒間
[こちらAWACSサンドストーム。当機の戦線離脱完了まで、あと120——いや、100秒でいい。あと少しだけ持ち堪えてくれ!]
管制官の懇願を耳に入れながら、空戦機動をとり続ける。
〈無茶言いやがるぜ……! おいヒヨコぉ! あと少し耐えろってよぉ!〉
〈耐え、るって……! 墜としちゃ、ダメ、なんすかァ!?〉
クランプ隊長の檄に、リックは息も絶え絶えなのに強気な返答をしている。
グレアが後ろで俺と敵機の動向を見張ってくれてるお陰で、彼らの無線を聴く余裕が生まれていた。
隊長が吠える。
〈このクソカラス、半能動誘導のロックが効かねぇんだよ! んな状態で墜とせるかってんだ!〉
[レーダーロック不能? 電子戦機——おそらく、某国の実験機に違いない]
——電子レンジ? 何だっけ、聞き覚えが……
『電子戦機——妨害電波を発する事でレーダー波を受け付けなくしたり、敵の機器に対して電子攻撃を仕掛ける機体です』
まるで思考を読んだかのようにフォーラが解説するが、酸欠気味な俺には半分も理解できなかった。
〈それでも、俺はァ、コイツらを墜とすッ! キルマークを、増やすんだッ!〉
視界の奥で、白星を背負う黒鳶が、無茶なハイG機動を繰り返すのが映る。
——ビーッ、ビーッ!
俺を追う敵機が痺れを切らしたのか、ミサイル・アラートが喧しく鳴る。
「くそっ!」
『下降旋回』
「はい、よっ!」
最適解へ反射的に従い、操縦桿を左、スロットルを全開、背面姿勢に移った瞬間機首上げ。Uターンしながらの高速離脱。
追尾兵器は曲がり切れず、雲海へと突き刺さる。
——ブヴヴヴヴヴッ
重い振動音のような機銃掃射。
『左旋回、減速』
的確に、指示通りの操作をこなす。もはや俺の頭に思考力は残っちゃいない。生き延びるには、彼女の判断を信じる。二年間の訓練の中で、身に染みついた事だった。
——ビーッ、ビーッ!
『機首上げ、減速のまま』
——ブヴヴヴヴヴッ
『加速し、螺旋機動』
ミルバスが、俺の身体が、フォーラの言葉を聞くたびに、右へ、左へ、上へ、下へ。舞い踊るごとに、視界は暗く狭くなる。
今、何秒経った? あと、何秒続ければいい?
去来する疑問を振り払い、ただ耳を澄まし、言われるがまま飛行する。し続ける。と——
——……あ?
止まった。レーダーロックの警報が。ついに。
すかさず急加速。骨の軋みそうな重圧を耐え、敵を少しでも振り切るために、全速力。
よし。よし! やっと引き離し——
〈隊長っ!〉
聞こえたのは、グレアの声。
隊長を探すのに、時間は掛からなかった。
なぜなら、俺を尾けていたカラスが標的を変え、一番機の背後目掛けて飛び去る姿が映ったから——
肺に残った空気すべてで、俺は吼えた。
「退避をっ!」
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【用語解説コーナー】
電子戦機
:航空機は電子機器を満載しており、
その性能の大小が作戦遂行能力や、
空戦の有利不利に影響を及ぼす。
ゆえに、それを増強・妨害する事は、
戦況を大きく変える事になる。
本作でのホワイト・レイヴンは、
電波妨害により機影のレーダー探知や
レーダー誘導のロックオンを阻害した。
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