00-11 0822標準時 エリア447
二羽の燕を墜とした後は、楽なものだった。おそらく、心的な部分もあったのだろう。
終了時間までに残った爆装は的確に投下し、隊長を真似て機銃掃射を試みたりもした。フォーラのアシストもあり、弾薬庫の破壊と装甲車一台の撃破を成し遂げた。
対空火器は全て隊長が排除し、敵航空部隊の増援も無かった為、俺らは安全な空中散歩を堪能した。
[よし。充分な戦果だ。あとは地上友軍が敵基地を攻略する。第916航空遊撃隊、帰投せよ]
淡々とした口調でAWACSが作戦終了を告げる。
〈了解。テメェら、帰りは管制機のお守りだ。編隊飛行を崩すなよ〉
〈了解! 帰ったらすぐキルマーク付けなくっちゃなァ!〉
彼の声はYog-25を撃墜してから、ずっと浮かれていた。
〈リック! アンタが並ばないと後ろの私も遅れるじゃない! 早くしなさいよ!〉
「そうキツく言ってやるなよ。こうして皆が生きて帰れるのも、アイツの頑張りのお陰だ」
〈それは——そうかもだけど……〉
〈さッすがミナト! 良いこと言うゥッ!〉
三番機がクルクルとロール回転しながら〈なんなら、エース様がデートしてやってもいいぜェ!〉と余計なことを言ったせいで、結局グレアは不機嫌に逆戻りした。
★=——
〈隊長ォ! 初作戦成功祝いに、今晩はメシ奢ってくださいよォ!〉
〈あぁ? ふざけろ。ヒヨコ頭はトウモロコシでも食ってな〉
〈そうよ。私の狙ってた標的を、何度横からつまみ食いされたことか〉
「あっはっは! リックの後ろを飛んでたら食いっぱぐれそうだ!」
洋上を航行中も、無線会話が途切れる事はなかった。真面目なグレアが砕けた物言いをする程には、みんな気を抜いていた。
足元には白く厚い雲が広がり、これっぽっちも海は見えない。
〈そういやミナトォ〉
「ん、なんだよ」
〈お前、もうTACネーム決めたかァ?〉
「あー……」
言われて思い出す。俺らにとって、それは一人前の証であり、今後ずっと背負い続ける十字架のような物。戦闘機乗りとしての呼び名。
「——決めたぜ。まだ秘密だけどな」
嘘だった。
〈ちぇー。なんだよ、それェ〉
きっと簡単に決めていい物じゃない。何より、俺が抱えるべき使命だとか役目だとか——そういうのが、まだハッキリしない。
——生きること以外の目的、かぁ……
[第916航空遊撃各機へ]
俺の思案は、その通達に掻き消された。
[不明機を探知した。一機——いや待て、二機か……?]
〈おいおい、こっちのレーダーには映ってねぇぞ。方位はどっちだ〉
[360——真北だ。すまないが、所属も数も不明]
焦りの見える管制官の声を聞きながら、俺は指示のあった方向に目を向ける。
遥か遠くの空。太陽の光を反射する眩い物体が、二つ、見えた。
★=—— ★=—— ★=——
【用語解説コーナー】
ロール、ピッチ、ヨー
:航空機の機体を傾ける方向を示す語句。
ローリング:X軸の横回転。
扇風機の羽根のような回転方向。
これ単体では進路は変わらず、これに
ピッチング・ヨーイングを組み合わせて
大きく方向転換させる。
ピッチング:Y軸の上下回転。
車の輪軸のような回転方向。
地面に水平な姿勢から、
機首上げで上昇、
機首下げで降下する。
ヨーイング:Z軸の水平回転。
竹とんぼやコマのような回転方向。
ラダーペダルを踏む事で尾翼を動かし、
水平姿勢のまま進路を変更する事が可能。
ローリング+ピッチングと比べると、
方向転換に時間が掛かる。微調整向き。
——=☆ ——=☆ ——=☆




