暗闇の中で
「あれ、どうしたの? 恭一君」
部屋から出てきた麻人が、恭一を見て不思議そうな顔をしている。悠と恭一は、玄関で立ち尽くしていた。
「麻人、大丈夫なのか?」
「何が?」
麻人は、ちらっと悠を見た。悠は、下を向き黙っている。麻人の顔を見て、恭一はひとまず安心した。
「まぁ、入ってよ」
恭一は、食卓に通され椅子に座った。
「悠、恭一君に何か飲み物でも出してあげて」
「うん」
悠は冷蔵庫を開け、ちらりと恭一の顔を見たがすぐに冷蔵庫の方に向いた。
「悠から聞いたんだけど……最近、寝ている事が多いって」
「恭一君には言わないでって言ったのにな」
麻人は、顔をしかめ目線を下げた。
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。暑いからさ。夏バテかな」
「少し瘦せた気がする。顔がさ……」
恭一は手を伸ばし、麻人の頬を触った。柔らかくすべすべの肌で温かかった。
その時だった、恭一の脳裏に前世の妻・アサの顔が浮かんだ。悲しい表情をしている彼女……恭一は急に不安を感じた。
「もう、大丈夫だってば」
麻人は真っ赤な顔をしている。
「ごめん」
気まずさをかき消したい思いと、心配な気持ちから、
「これ食べないか」
恭一は、コロッケの包みを差し出した。
「何?」
「そこの商店街の肉屋のコロッケ」
「家に持って帰るんじゃないの?」
「帰りにまた買えるから、いいよ」
「ありがとう。お父さんみたいだね」
麻人は、ふふっと笑った。
笑顔の麻人を見て、恭一はほっとした。そして、悠が出してくれた冷たい麦茶を一気飲みした。
「じゃ、そろそろ帰るわ」
「コロッケ、ありがとう」
包みに両手を添える麻人に、軽く頷く恭一。
「またな」
玄関先で麻人と悠に見送られ、恭一は足早に自宅に向かった。帰り際、不安気な表情の悠が気掛かりだった。いつも明るい悠。また、ゆっくりと話を聞かないといけない。
自転車で商店街を通り抜け、コロッケを買う事を思い出し引き返した。
肉屋の奥さんに、どうしたのと聞かれたが「追加で」と適当に言ったように思う。
不安そうな悠、何か隠していそうな麻人。うわの空で自宅に向かっていた。
「遅かったわね。どうしたの?」
「ちょっと麻人の所に行ってた」
母親にコロッケを渡し、自分の部屋に行った。
恭一の部屋には、まるで待っていたかのようにビハクがいた。
「ビハク、麻人が変なんだ。何か知ってるか?」
愛猫の頭を撫でながら、言葉をかけた。当たり前ではあるが、何も答えてくれない。
◇
薄暗い闇の中、誰かいる。見覚えのある青年……
「麻人、麻人なのか?」
呼びかけても、彼は振り向かず奥へ奥へと進んでいく。
「待っくれ、麻人」
恭一が必死で手を伸ばすが、前に動くことができない。
◇
恭一は、汗だくで目を覚ました。時刻は午後7時。帰ってから、少し眠り込んでしまったようだ。
下の階から母親が恭一を呼んでいる。夕飯ができたようだ。頭がすっきりしないまま、一階の食卓に降りることにした。




