商店街の帰り
「恭一くん、今日はおつかい?」
肉屋の前に着くと、明るい声で店の女性が声をかけてきた。彼女は店主の奥さんで、恭一の母親と同じくらいの年齢である。
「はい。母からこれを渡すように言われて」
封筒を女性に差し出した。中身は楽譜のようだった。
「ありがとう。こないだ、合唱クラブの練習に行けなかったの」
彼女は、母親と同じ合唱クラブのメンバーであることを思い出した。
「あの、コロッケが欲しいのですが」
「何個?」
家を出る前、母親からコロッケを買ってきてほしいと言われていた。そして、景山君にも買ってあげてとも言われていた。
「コロッケ十個と五個を別々にしてください。それと、今食べたいので二個ください」
「オッケー。合計十七個ね。ありがとう」
彼女は、高めの伸びやかな声だった。
恭一は、包みに入ったコロッケを受け取った。
「二人で食べるのよね。これは私から」
一個ずつ、小さな袋に入ったコロッケ二つを手渡された。
「ありがとうございます」
「お母さんによろしくね」
恭一は、コロッケ十五個分の支払いを済ませ、景山にコロッケを一個渡した。
恭一と景山は、歩きながらコロッケを食べた。
「美味しいですね」
「そうだな。ここのコロッケ、うちの家族が好きでさ」
「僕も、好きです」
「そうそう、これ。母さんから渡すようにって」
恭一は、コロッケが五個入った包みを渡した。
「いいんですか? ありがとうございます。お婆ちゃん、喜びます」
景山は、包みを見ながら微笑んだ。
恭一は、駅前まで景山を送った。
「またな」
「今日は、ありがとうございました」
片手を上げた恭一に、景山は一礼し改札口に入っていった。
自転車に乗り、家に向かうと前方に悠がいた。コンビニに入るところだろうか。
「悠!」
恭一が声をかけると、悠はあっ、と口を開けたまま手を振っている。
「恭一さん。どうしたんですか?」
「さっき、景山君を駅まで送っていたんだ」
「そうなんですね」
「悠は、買い物?」
「はい。いい匂いがしますね」
悠は、自転車の前カゴに入った包みを見ている。
「これは、肉屋さんで買ったコロッケ」
「そこのコロッケ、美味しいですよね。私、好きです」
「食べるか?」
「いえ、大丈夫です」
悠が笑いながら遠慮をし、恭一もくすっと笑った。
「コンビニに行くの?」
「はい」
「じゃ、俺は帰るわ。麻人によろしくな」
にっこり笑う悠の目線が、少し下を向いていた。恭一は自転車を走らしたが、すぐに引き返した。コンビニの前に着き、自転車を降り立ち止まっていた。しばらくすると、悠が店から出てきた。
「あれ? どうしたんですか」
「ちょっと、気になって……どうかしたのか?」
悠は、泣きそうな顔をしているように見えた。彼女は少し俯き、恭一を見上げた。
「お兄ちゃんには黙っておくように言われたんだけど。最近、寝ていることが多くて」
「麻人が? 体調が悪いの? 今から行っていいかな」
恭一は、麻人に会いに行くことにした。




