恭一と景山
「こんにちは」
恭一が振り向くと、景山がいた。庭で日課の剣道の素振りをしているところだった。
「景山君か。こんにちは。今日も笛のレッスン?」
「はい。それと、これを返しにきました」
景山は、紙袋を恭一に渡してきた。そこには、浴衣や帯や草履が入っていた。
「遅くなって、すいません」
「いや、構わないよ」
花火大会から、数日が過ぎていた。浴衣は、きちんとクリーニングに出したようだった。
「わざわざ、ありがとう」
「あと、これも……お礼です。お婆ちゃんが、渡しなさいと言って」
景山は、もう一つの小さめの紙袋を差し出した。
「気を遣わせてしまったな。お婆さんによろしくと伝えてくれ」
「はい」
恭一と景山は、向かい合ったまま無言になってしまった。
「あ、あの……花火大会、楽しかったです」
「そうか、良かった」
二人は、また黙ってしまった。
さすがに気まずさを感じ、思わず言ってしまった。
「来年も、また花火見に行こうな」
「はい。お願いします」
景山はお辞儀をし、頬を赤らめていた。
「あの、練習、少し見ていていいですか?」
「俺の? 構わないけど」
景山は、縁側に腰掛けた。恭一は、さっそく素振りの練習を再開した。話が続かず好都合だったものの、やはり気になる。恭一は、ひと段落すると景山の横に座った。
「近くで見ると迫力ありますね」
「そうかな……ちょっと待てて」
恭一は、冷蔵庫からお茶の入ったポットを取り出し、グラス二個を手にした。
「お茶でも飲む?」
「はい。ありがとうございます」
二人は、前を向いたまま冷たいお茶を飲んだ。
「美味しいです。何のお茶ですか?」
「これは、たぶん黒豆茶だと思う」
「へぇ、黒豆茶。初めて飲みました。いい香りがする」
「そうだな。香ばしくて美味しいよな」
「はい」
恭一は、空になった景山のグラスにお茶を注いだ。すると、景山も恭一のグラスにお茶を注いだ。そして、お互いフッと笑ってしまった。
「恭一、駅前のお肉屋さんにこれを届けてくれない?」
母親が、茶封筒を手にし近づいてきた。
「こんにちは」
「景山君、こんにちは。今日も龍笛の特訓だったの?」
「はい」
景山は、立ち上がり返事をした。
「母さん、景山君から」
恭一は、彼から受け取った紙袋二つを母親に渡した。
「あら、浴衣ね。これは?」
「お婆ちゃんが、お礼に渡しなさいと」
「そうなの? ありがとう。お婆様にお礼言っておいてね」
「はい」
「ゆっくりしていってね」
紙袋を大事そうに抱え、母親は部屋を出ていった。
「俺、ちょっと着替えてくるから待ってて。駅まで一緒に行こう」
「はい」
恭一は急いで自分の部屋に行き、Tシャツとデニムに着替えた。
「お待たせ」
恭一は、自転車を手で押し景山と並んで歩いた。
「景山君は、いつも駅から歩いてくるの?」
「はい。でも、たまに帰りはお爺さんが駅まで車で送ってくれます」
「そっか」
「爺ちゃん、楽しそうだからな。ありがとな」
「いえ、僕も楽しいから」
二人はゆっくりと歩き、15分程たったところで駅前から続く商店街にさしかかった。
「お肉屋さんは、もうすぐだ」
「そうなんですね」
「そこのコロッケ、美味しいんだ。食べていかないか?」
「え? 是非」
景山が、恭一を見上げ笑顔を見せた。




