三人で
朝になり、恭一と麻人は食卓に行くと、母親が台所で朝食の支度をしていた。
「おはようございます」
「あら、おはよう。よく眠れた?」
「はい。手伝います」
麻人は、恭一の母親に頼まれ、鍋の味噌汁をお椀に入れている。
「美味しそう。具がいっぱいですね」
母親は、麻人に微笑んだ。味噌汁には、人参や大根や玉ねぎやジャガイモなど、野菜がたっぷりと入っている。
「恭一は、お茶の用意をしてくれる?」
「うん」
恭一は、食器棚からコップを出しテーブルに並べた。その間にも、麻人は食器を洗ったり、手際よく動いている。
「麻人君がいると助かるわ」
「そんな。いつもしてるので」
「偉いわね」
母親は、ちらっと恭一の方を見てニヤリとした。恭一は、心の中で「すいませんね」と呟いた。
「おはようございます」
悠が、明るい顔で台所に入ってきた。
「おはよう。朝ご飯、もうすぐ出来るからね」
「手伝います」
悠もまた、麻人と同じようにてきぱきと動いている。恭一だけが、取り残された気分だった。
「ところで、姉さんと奈穂ちゃんは?」
恭一は、悠に問いかけた。
「よく寝ているので、そっとしてきました」
悠は、にこやかに答えた。
「仕方ないな。夏休みだしな。放っておくか」
恭一は、呆れ顔をしつつも笑っていた。
朝食の準備ができ、恭一と麻人と悠は先に食べることにした。相変わらず、悠は朝から食欲旺盛でご飯をお代わりしていた。
「悠、朝からよく食べるね」
「だって、すごく美味しいんだもん」
兄と妹のたわいもない会話を、恭一は微笑ましく感じていた。
「悠ちゃん、もっと食べてね。美味しそうに食べてくれるから嬉しいわ」
「はい。ありがとうございます」
恭一も、悠につられてかご飯をお代わりしていた。
「あら、恭一もお代わり? 珍しいわね」
「そうかな」
いつもと変わらない長月家の朝食メニューだったが、今日はとても美味しく感じていた。
食事を終え、皆で片付けた後、麻人が散歩でもしようと提案し外に出ることにした。
「気持ちのいい朝だね。天気もいいし」
「私は、お腹いっぱい」
「食べ過ぎだよ」
麻人と悠が話している横で、恭一は笑みを浮かべていた。
「そこで座るか」
水灯の池の前の木造のベンチに三人は座った。三人が池を眺めていると、ミャーと猫の鳴き声がした。麻人の足元に、ビハクがすり寄ってきた。
「あれ、ビハクも散歩?」
麻人が問いかけると、ビハクは麻人の膝の上に乗った。
「ビハクは、麻人が一番好きだよな」
「そうなのかな。嬉しいな」
麻人は、ビハクのお尻あたりを優しくとんとん叩いている。
「悠と僕が着た浴衣、洗って返すね」
「いや。返さなくていい。持っていてくれ」
「どうして?」
恭一は、少し黙り込んでから前を向いたまま言った。
「来年も、一緒に花火を見に行こう」
恭一は、ちらっと麻人と悠の方に顔を向けた。
「うん。絶対に行こうね」
弾けるような笑顔の麻人に、恭一は安堵した。悠もまた、顔をほころばせていた。




