お泊り
恭一は、自分の部屋の勉強机の椅子に座り、窓を開け夜空を眺めていた。夜になると涼しく、夜風が心地良かった。時折、彩音の部屋から笑い声が聞こえてくる。
結局、奈穂と一緒に悠も泊まることになった。彩音の部屋に布団を敷き、奈穂と悠は「修学旅行みたい」と盛り上がっていた。
そして、恭一の部屋には麻人がいる。麻人はベッドに腰掛け、膝の上に乗ったビハクを撫でている。
「ビハクは、ここで寝るのかな?」
「どうだろうな」
「ビハク、どうするの?」
麻人は、優しい声でビハクに尋ねた。すると、ビハクは麻人の為に敷いた布団の上に降り立ち、枕元で丸くなった。
「ビハクは、麻人と一緒に寝るみたいだな」
恭一の言葉に、麻人はにっこりと微笑んだ。
「今日の花火、ほんと綺麗だったよね」
「そうだな」
「ねぇ、覚えてる? 以前も花火を見に行ったよね」
ビハクに目を落としていた麻人が、顔を上げて言った。
「そうだったかな」
「え、覚えてないの? あの時の悠……雄吉だね。大はしゃぎでさ」
麻人は、くすくす笑っている。恭一は、正直なところよく思い出せなかった。
「だから、初めて一緒に行った気がしなかったんだな」
「僕は、よく覚えているよ。昔も今も、大切な思い出だよ」
「ごめん。覚えてなくて」
「謝らなくていいよ。僕は、忘れたくないな」
口角は上がっているが、麻人の視線は下を向いていた。
「悠たち、楽しそうだよね。笑い声がよく聞こえる」
「本当だな」
恭一は、自分といると楽しくないのかもしれないと気になってしまった。
「俺は、面白い事を言えないしな……」
「え?」
麻人は、きょとんとした顔をし大笑いした。
「恭一君って、面白いよね」
「……」
恭一は、なぜ麻人が大笑いしたのかは分からなかった。けれど、何だか可笑しく心地よかった。
「景山君も、泊まって行けば良かったのにね」
「そうかな? 気まずくて居心地悪いと思うけどな」
恭一は、景山には泊まらないかと誘わなかった。祖父に龍笛を教わるようになり、恭一の自宅に顔を出すことが増えたものの、それほど会話がはずむこともなかった。
「景山君さ、恭一君のこと、すごく好きだよね」
「え? なんで」
恭一は、眉間に皺を寄せ顔をしかめてしまった。
「そんな顔しなくても……」
麻人は、また大笑いした。
「嫌なの?」
「いや、そういう訳ではないんだけどな」
今日の麻人は、よく笑う。普段から笑顔ではあるが、いつも以上に笑っている。そんな様子を、恭一は嬉しかった。恭一は、麻人とゆっくり話がしたいと思っていた。そして、何か聞きたいと思っていたはずなのに、時間が過ぎていってしまった。




