滝へ
「どうしたの? 寝不足?」
食卓でパンをかじる恭一に、彩音が尋ねた。
昨晩は寝つきが悪く、もやもやした気分のまま朝をむかえたのだ。
「うん。なかなか眠れなくて」
牛乳を飲み、自然と溜息をついてた。自分でも、どうしてこんなにも気になるのか分からない。
「何かあったの?」
ぼんやりとした恭一に、彩音は明るい声で聞いてくる。一人でもやもやしていても仕方ない。恭一は、彩音の顔を見ると話したくなった。
「昨日、変な夢を見てさ。麻人っぽい人が暗闇に消えて行くんだ……」
「そうなの」
「昨日、麻人に会ったんだけど調子悪そうでさ。悠が言うには、よく寝ているらしいんだ」
「そう。麻人君は何て?」
「夏バテだって言ってたけど、少し違和感というか……」
「そっか」
彩音は、頬杖をつき暫く黙っていた。
「ねぇ、希水君に会いに行かない? 何か分かるかも」
「希水に?」
恭一は、姉の思い付きに驚いたが一緒に行くことにした。
いつの間にか、ビハクが彩音の側にきていた。
「ビハクも行くのね」
彩音の問いかけに答えるように「みゃー」と鳴いた。
恭一と彩音は、少し遠いが自転車で希水のいる滝に向かうことにした。恭一の自転車カゴに小さめの座布団を敷いてビハクを乗せた。
8月後半だが、まだまだ外は日差しが強い。
「ビハク、暑いよな。大丈夫か」
前カゴの淵に前足を乗せ、ビハクは正面を見ている。恭一は、彩音が付いてきているか振り向いた。彩音は止まり、ペットボトルのお茶を飲んでいた。恭一も水を飲み、手のひらに水を入れビハクに差し出した。ビハクがぺろぺろと舐め、少しくすぐったい。
「お待たせ。今日は暑いね」
彩音が恭一に追いつき、ビハクを見てにっこりした。
「そうだな。行くか」
恭一達は、自転車を漕ぎ滝に続く山道の手前まできた。自転車を置くと、ビハクは前カゴから飛び降り、進んで山道に入っていった。
ビハクに続き、恭一と彩音が付いていく感じで進んでいった。さっきまでの暑さが嘘のように、とても涼しい。もっと来れば良かったなと思ってしまった。ほどなくすると、目の前に滝が見えてきた。
「あ、希水君だ」
彩音が走り出した。恭一は、最初は分からなかったが滝に近づいて行くと希水の姿が見えてきた。
小さな天狗の姿の希水。滝の近くの岩に座り手を振っている。
「彩音ちゃんに恭一。会いに来てくれたの?」
「うん、そうなの。ちょっと聞いてほしい事があるの。ね、恭一」
「ああ」
希水は、きょとんとした顔をしたが即座に、
「麻人に何かあったの?」
希水は岩から、こちらに飛んできた。
「何かあったと言う訳ではないんだけど、気になることがあるんだ」
恭一は、ビハクを抱えたまま岩場に座り、希水に話し出した。




