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浴衣

 恭一は、畳に並べた男物の浴衣を眺めていた。花火大会は、みなで浴衣を着て行こうということになった。麻人や景山は浴衣を持っていないようで、恭一のものを貸してあげることにした。何着か持っていたので母親に用意してもらった。その中には、父親が昔着ていた浴衣もあった。それぞれどれがいいか考えていた。悩んだ末、二人が来てから好きな物を選んでもらおうと思った。


 麻人と悠、そして景山が来たようだ。悠は、彩音の浴衣を貸してあげるようで、彩音はうきうきしながら選んでいた。

 悠は彩音に手を引かれ、彩音の部屋に連れていかれた。


 麻人と景山は、茶の間の隣にある畳の部屋に入ってもらった。


「俺が着てた浴衣だけど、どれがいいか選んでくれないか」

 麻人と景山は、二人顔を合わせたあと、真剣な顔で浴衣を眺めていた。


「僕は、これがいいな」

 麻人は、グレー地にかすれた白い(しま)模様の浴衣を選んだ。


「僕は、これが着たいです」

「これは、俺が中学の頃によく着ていた物だな」

「そうなんですね。これ、好きです」

 景山が選んだものは、白地に黒の模様がある浴衣だった。


「うん。この浴衣、可愛いね。景山君に似合いそうだよ」

 浴衣を見ながら、麻人はにっこり微笑んだ。


「まずは、景山君の着付けからいくか」

「恭一さんが着せてくれるんですか」

「ああ、そうだ」

 景山に和装用の肌着に着替えてもらうと、恭一は白地の浴衣を手にとった。

 景山にさっと浴衣をかけると、前身ごろを合わせた。

「長さは大丈夫みたいだな。麻人、ちょっと前を押えてて」

「分かった」

「人に着せるのって難しいな」

「だろうね。僕もできないよ」

 恭一と麻人と二人がかりで着せてもらっている景山は、両腕をやや開き気味にペンギンみたいに固まっていた。帯を結び終え、浴衣の背中あたりと裾をすっと伸ばした。

「よし、これでOKだ」

 恭一が前から浴衣姿を眺めると、景山はなぜか涙ぐんでいた。


「どうしたんだ? 帯が苦しいか?」

「いえ、僕、父親を6歳の時に亡くしたんです……だから、お父さんがいたら、こんな感じなのかなと思って」

 恭一は、景山の言葉にどう答えていいか戸惑っていた。けど、お父さんって……

「それは大変だったな。けど、せめてお兄さんにしてくれない? 俺、高校生だし」

「あ、すいません」

「恭一君、落ち着いてるからね。けど、お父さんはね」

 景山をちらりと見て、麻人は笑っている。真っ赤になった景山に、恭一も笑ってしまった。


「俺達も着替えるか。麻人は、自分で着れるだろ」

「うん。さっき見てたから大丈夫だと思う」


 恭一は、麻素材で表面に凹凸があり、縞模様に見える濃紺の浴衣にした。父親のお古だが、質がよく通気性の良い生地で気に入っている。

 

 恭一も麻人も浴衣に着替え、お互いの姿を見合った。

「恭一君、似合ってるね。大人っぽいよ。お父さんだね、景山君」

「はい。恭一さんも麻人さんも似合ってます」

「お父さんは、やめてくれよ。麻人も景山君も、かっこいいな」

 麻人は明るい笑顔で、景山は照れた表情をしている。


「姉さん達が用意できるまで、隣の部屋で待つか」

「そうだね。景山君も行こう」

「はい」

 三人は、茶の間へ行き女性達を待つことにした。

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