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それぞれの思い

◇恭一


『あいつは、いつもそうだ』恭一は、麻人のことを考えていた。

 麻人は、いつも笑顔を絶やさない。一人で思い悩み、顔に出さない。前世の時だってそうだ。

 

 前世で、恭一は若くして病におかされ、妻や子供達を残し他界した。妻は小さな子供をかかえながら、病に伏せた夫に泣き言を言わず、常に明るく振舞っていた。

 今、なにか心配事があるなら話してほしい。昔と違って立場は違うが、大切な存在なのは変わりない。


 お願い、もう少しだけ……麻人がビハクに向けた言葉が頭から離れない。なにか隠している気がする。普通に聞けばいいのに、聞くことができなかった。あの時、知るのが怖いと思ってしまったのだ。


 恭一が、自分の部屋で悶々としていると、ビハクが側にやってきた。

「ビハク、お前は知っているんだろ?」

 恭一がビハクの頭を撫でると、ビハクはちらりと恭一を見て、すぐにそっぽを向いた。

「相変わらず、俺には愛想がないな」

 恭一は、目を閉じ丸くなったビハクを呆れ顔で見ていた。

 

 夏祭りが終わり、外は普段通りの静けさに戻っている。さっきまで、皆と賑やかにしていたせいか、とても寂しく感じてしまう。自分が、こんな風に思うようになったのが嘘のようだ。


 恭一は、前世も今世も物静かな性格だ。黙っていると、話しかけにくいとよく言われてきた。

 その点、麻人は気軽に話しやすく、彼がいると周りが明るくなる。こんなつまらない自分と一緒にいて、麻人は楽しいのだろうかと思うことがある。


 スマホにSNSの連絡がきたようだ。麻人からだ。来週、隣町である花火大会に行かないかという誘いだった。悠が行きたがっているようだった。

 昨年は、奈穂にねだられ一緒に行った。今年は、みんなで行きたいなと思い、早速返事をした。



◇麻人


 麻人と悠は自宅に戻っていた。帰ってそうそう、悠はソファでスマホを見ながら寝落ちしかけていたので、部屋で寝るよう促した。麻人も疲れていたが、何だか眠れなかった。

 

 杉の木の下にいたビハクに思わず言ってしまった言葉……恭一は聞いていたように思う。 

 別に隠している訳ではないけれど、今は言いたくない。

「もう少し、このままでいたいんだ……」

 

 麻人は、今日の夏祭りを思い返した。神社の儀式は、厳かで神秘的だった。気高い雰囲気で、横にいる恭一がより堂々としているように見えた。

 御朱印を書く恭一も、大人っぽくてカッコ良かったなと思った。自分も、しっかりしないといけないと感じてしまった。

 

 麻人は、溜息をつきスマホに目をやった。

 悠が、花火大会に行きたいと言っていたので、恭一に連絡してみた。恭一から、すぐに返事がきた。あまりの速さに驚き、思わず笑ってしまった。

 みんなと一緒に行く花火大会が待ち遠しいなと思い、少し心が軽くなった。


◇悠


 悠は、自宅に戻りほっとしたせいか、すぐに眠くなってしまった。今日の夏祭りは、本当に色んな経験ができ充実感で幸せだった。

 儀式を無事に終え、恭一に良く出来ていたと褒められた。前世も今世も、悠にとって恭一は尊敬すべき人で、認められることが何より嬉しい。恭一と出会ってから、彩音や奈穂とも出会えたしとても楽しい。それに、恭一の祖父母や両親にも優しくしてもらっている。恭一には、感謝しかない。

 

 恭一に『綺麗だった』と言われ時は、嬉しかったが戸惑ってしまった。何だかむず痒く、恥ずかしく感じてしまった。

 

 来週、みんなと花火大会に行きたいなと思いながら、悠は眠りについた。

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