猫との縁
「あのカラスはビックリしたよね」
縁側で寝転がっていた奈穂が、立ち上がり言った。
「え? そうだった?」
悠は全く気付いていなかったようだった。
「噓でしょ。バサバサと飛んでったのに。結構目立ってたよ」
奈穂が、驚いたような顔をしている。
「私、緊張してて……周りを見てなかった」
照れくさそうに笑う悠に、みんなが大笑いした。
「悠ちゃん、すごく緊張してたものね」
彩音も縁側から立ち上がり、テーブルの方へやってきた。
「この神社の伝説の天狗様が来たみたいで、ちょっと感動したわ」
奈穂が言うと、麻人がクスクス笑いだした。
「麻人さん、なんで笑ってるの?」
「ゴメン。思い出して……ほんと良かったよね」
奈穂は、少しむすっとしている。
「悠は、初めてなのに良く出来てたな」
「ありがとうございます」
恭一に褒められ、悠は笑顔になった。
「恭君。私は?」
「奈穂ちゃんは、いつも通りで安心して見れた」
「ふうん」
恭一の言葉に、奈穂は口を尖らせていた。
「奈穂ちゃんは、とっても綺麗だったよ」
麻人が言うと、奈穂は嬉しそうに顔を赤らめた。
「神社の伝説、補足するストーリーがあること知ってた?」
彩音の新情報に、皆が知らないと言った。恭一も、初めて聞く話だ。
天狗の男の子の失くし物を探した娘は、良縁に恵まれた。その相手との出会いの話だ。
娘はある日、迷い猫に出会った。お腹をすかせた猫に、飲み物や自分の食べ物を分けてあげていた。そんな折、迷い猫の飼い主が娘の元を尋ねてきた。心優しい娘に惹かれ、猫の飼い主は求婚した。
「お婆ちゃんから、最近聞いた話なの。猫って、ご縁を運ぶって言われてるものね」
彩音は、恭一と麻人と悠の方を見てにやりとした。
「ビハクが、みんなと出会わせてくれたよね」
麻人は、しんみりと呟いた。
「ビハクには、感謝しないとな」
恭一も、しみじみと言った。
「ねぇ、ビハクはどこに行ったの?」
悠が、心配そうな顔をして辺りを見渡している。
「本当だ。ビハク……」
麻人が、珍しく慌てている様子だ。
「そのうち、ふらっと帰ってくると思うけどな」
恭一は言った。
「僕、探してくる」
麻人は、急いで家を飛び出していった。恭一は、落ち着きを失った麻人が気になり、後を追った。
麻人が、大きな杉の下でしゃがんでいる。
「麻人……」
恭一が声をかけると、麻人は振り向いた。
「ビハク、ここにいたよ」
麻人は笑顔だった。
「ああ、良かったよ」
麻人は、ビハクをかかえ抱きしめている。
「ビハク、お腹すいたよね。家に戻ろう」
麻人は、いつも通りの優しい声だった。
『お願い、もう少しだけ……』
麻人が、確かにビハクに言っていたのを恭一は聞いた。意味は分からない。気掛かりではあるが、問い詰めることができなかった。




