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麻人の笑顔

「すごく綺麗な儀式だったね。それに懐かしい」

 麻人は、池を眺めながら呟いた。儀式が終わり、水灯(みなしび)の池に集まる人々は数人になった。

「そうだな。俺も、懐かしい気がした」

 以前は感じなかったが、胸に込み上げるものがあった。毎年見てきた光景が、いつもと違うものに感じ心が震えた。麻人や悠が、側にいたからだろうか。


「けどさ、あのカラスには驚いたよね」

 麻人は、吹き出しながら言った。

「希水だろ」

 遠い昔を思い出していた恭一は、我に返り答えた。


「希水、ずっと儀式を見てたの知ってた?」

「いや」

「僕さ、途中で希水が木の上にいるのに気付いてさ」

「そうなんだ」

「ずっと、こっちを見てるから何してるんだろって思ってたんだよね」

 話しながら、麻人は体をゆすって笑っている。

「俺は気付かなかった」

「希水、いいタイミングで飛んでいったね。カッコ良かったよ」

 麻人は、穏やかな表情で微笑んでいる。

 その顔を見て、恭一はドキリとした。前世の妻の表情と、そっくりだったからだ。彼女は、いつも優しい顔で笑っていた。その笑顔を側で見ているだけで、心が和み幸せだった。

 恭一は、この思いを麻人には言わなかった。今は、大事な友人で何だか言うのが恥ずかしかった。


「そろそろ、家に戻ろうか。みんなも戻ってるだろうし」

「そうだね。悠が待ってるね」

 

 恭一と麻人は、静かに家の方へと向かった。

「少し、涼しいね」

「そうだな、夜はこの辺りは過ごしやすいよな」

 すっかり暗くなり、幾分か蒸し暑さも和らいでいる。家の前に着くと、笑い声が聞こえてきた。恭一の祖父と父親の声だった。

「相変わらず、大きい声だよな」

 恭一の呟きに、麻人はくすっと笑った。


 恭一と麻人が茶の間に入ると、家族みんなが勢ぞろいしていた。

「おかえり、晩ご飯食べたの?」

 恭一の母親が聞いてきた。

「屋台の焼きそばを食べた」

 恭一が母親に答えると、

「二人も一緒に食べたら。皆さんからの差し入れよ」

 母親が言うように、テーブルにはたくさんの食べ物が並べらている。お好み焼き、とんかつ、唐揚げ、コロッケ、お寿司、赤飯など。毎年、商店街や近所の人達が届けてくれる。


 私服に着替えた彩音と奈穂は、縁側で寝転んでいる。悠と景山は、二人並び食事していた。


「悠。無事終わって良かったよ。とても可愛かった。ね、恭一君」

「ああ、綺麗だった」

 悠は、一瞬きょとんとした表情をし、顔を赤らめ笑顔になった。


「景山君の太鼓、カッコ良かったよ」

「ありがとうございます」

 麻人に褒められ、景山は嬉しそうだった。儀式の合図にもなる太鼓を、今年は景山が担当した。


「景山君は、リズム感があるしなかなかいい音だったな。来年もお願いするぞ」

「はい」

 恭一の祖父、陽一にも褒められ景山は満面の笑みだった。


「爺ちゃん、来年は景山君と一緒に龍笛なんてどうかな」

「おお、それもいいな。景山君、頑張ってくれよ」

「はい」

 景山は、元気よく返事をした。

「来年の太鼓は、恭一がするか」

 陽一が言うと、


「それは、やめておけ。恭一はテンポ感ないからな」

「それもそうだ」

 父親と祖父が、大笑いしている。

 確かに、自分にはリズム感もないし無理かもなと恭一は自覚していた。でも、そこまで笑うことないだろとムスっとしていた。


「恭一君の字、すごく力強くて綺麗だよね。僕は好きだな」

 麻人が言うと、

「そうだ。恭一の字は本当に良い。勢いがあって、わしも好きだ」

 陽一が、腕を組み感心している様子だった。

「そうだな。家族で一番上手い。綺麗な字だ」

 父親の栄一も認めている。

 褒められたものの、いつものように少し酔っぱらっている二人を見ながら、恭一は少し呆れていた。そして、ふと麻人を見ると、恭一を見てにっこり微笑んでいた。

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