水灯の伝説
この神社には、語り継がれた伝説がある。
昔、池のふちで小さな男の子が失くし物を探していた。気になった村の娘は、提灯を片手に男の子と一緒に薄暗くなった池を探した。
やがて失くし物は見つかり、男の子はとても喜んだ。娘に礼を言うと、男の子は天狗の姿になった。天狗はお礼に願いを尋ねると、娘は言った。
「弟達に腹いっぱい食べさせてやりたい」
天狗は、願いを聞くと山へと飛んで行った。
それから間もなくして、娘に良縁が舞い込んだ。娘の家は豊かになり、家族は幸せに暮らしたという。
(挿絵は生成AIで制作しました)
これが、ここ水灯神社の伝説である。
この伝説が、いつしか一世一代の願いを叶えてくれると伝承されていった。また、縁結びとしても知られている。
~心静かに水面に灯を照らし、願いを唱えよ~
水灯神社のすぐ横に小さな池がある。その池のふちには、明かりは付いていないが提灯が置かれている。お参りに来た人は、その提灯を手に取り神に感謝し、池を見つめ静かに願いを唱える。
そうすると、この水灯の池の守り神、天狗様が願いを叶えてくれると言われている。
◇
「そろそろ、儀式が始まるな。池の方に行こうか」
恭一は、麻人と高井に向かって言った。
「うん、行こう」
麻人は、恭一を見てにっこり微笑んだ。
「私、琴ちゃんと一緒に後で行くね」
そう言うと、高井鈴華は早足で土屋琴子の方へ行った。
手相占いの列にいる土屋琴子は、今は二番目に並んでいる。儀式には間に合うだろうと、恭一は安心した。儀式は、この夏祭りを締めくくる行事である。せっかく来たのだから、見てほしいという思いがあった。
恭一と麻人は、神社の横にある池の前に来た。すでに数十人が集まっている。
「なんだか、僕の方が緊張してきたよ」
麻人が、そわそわしている。
「そうだな。俺も、ちょっと落ち着かないかも」
「だよね」
恭一と麻人は、お互いの顔を見て静かに微笑んだ。
太鼓の音が鳴り響いた。午後七時になり、いよいよ儀式が始まる。
集まった人々も話すのをやめ、静まり返った中で太鼓の音だけが響いている。太鼓の音が七つ鳴りやんだ後、龍笛の演奏が始まった。美しい音色で、皆が聞き入っているのが分かる。
笛の音が鳴りやむと、池の前で神主が祝詞を奏上しはじめた。神主の後ろで、三人の巫女が提灯を手に静かに立っている。
奏上が終わると、巫女達は明かりの付いた提灯を、池に掲げた。
空がだいぶ暗くなった中、提灯の明かりと、水面に映った提灯がとても幻想的で美しかった。
集まった人々は、思い思いに願いを唱えている。手を合わす者もいれば、頭を下げ一礼している者もいる。
その時だった……一羽の烏がバサバサと音を立て飛び立った。
「天狗様かな?」
一人の子供が、一緒に来ている母親らしき人に聞いた。
「そうね」
子供に聞かれ、にっこりと答えていた。
あれは、希水だよな。
あいつ、すごいなと恭一が感心していると、横にいる麻人は右手で口を押え、下を向いている。麻人は、笑っているようだった。恭一も、儀式が無事終わったことに安堵したせいもあったのか、なんだか面白くなり下を向いて笑ってしまった。




