屋台
恭一と麻人は、袴姿から私服に着替え、茶の間に入るとビハクが縁側で寝そべっていた。
「ビハク、今日は人が多くてビックリしてるよね」
麻人が呼びかけると、ビハクは立ち上がり麻人に近寄ってきた。
「悠や彩音さんや奈穂ちゃんは、どうしてるかな?」
麻人が、ビハクを撫でながら恭一に聞いてきた。
「父さんや爺ちゃんと、最後の打ち合わせ中じゃないかな」
「悠、緊張してるだろうな」
「姉さん達も一緒だし、大丈夫だよ。悠は度胸があるだろ」
「そうだよね。悠なら平気だよね」
「時間があるし、夏祭りを見に行かないか」
「そうだね」
恭一と麻人は、外に出て夏祭りを見に行くことにした。
空は少し薄暗くなっているが、出店が並びいつもと違って明るく賑やかだ。たこ焼き、お好み焼き、かき氷、唐揚げなどの飲食系の他、輪投げや福引など並んでいる。
「恭一」
大きな声をかけられ横を向くと、青年団の団長、宮下が焼きそばの屋台にいた。
「のぶさん、お疲れ様です」
「食べていけよ」
今年、青年団は焼きそば屋を出している。宮下から、焼きそば二食分を渡された。恭一が、お金を渡そうとすると、
「俺の奢りだ」
「すいません」
恭一が、少し遠慮がちに受け取った。
「君も、どうぞ」
宮下が、麻人に向かって言った。
「ありがとうございます」
麻人が笑顔でお礼を言うと、宮下は右手をあげながら
「おお」
と元気な声で答えた。
恭一と麻人は、飲食する為に設置された簡易テーブルや椅子のある場所に行き、座って食べることにした。
「お腹すいてたんだよね」
麻人が焼きそばの入ったプラスチック容器の蓋をあけ、食べだした。
「美味しい。屋台の焼きそばって、美味しいよね」
「確かにな。普段より美味しく感じるな」
恭一達は勢いよく食べ終えると、椅子に座りぼーっとしていた。
「何食べてたの?」
急に声をかけられ見上げると、同級生の高井鈴華だった。
「高井さん、一人なの?」
麻人が聞くと、
「ううん。琴ちゃんが手相占いに行ってるの」
手相占い……もしかして……恭一は見に行くことにした。
「ああ、やっぱりな」
恭一は、手相占いコーナーに昇子がいて呆然としていた。
「あの人……」
麻人が驚いていると、
「知ってる人なの?」
高井鈴華が聞いてきた。
「いや、知らない」
即座に恭一が答えると、麻人がくすくす笑っていた。
昇子の手相占いコーナーは、十名くらい並んでいてほぼ女性客だった。その列の後ろの方に土屋琴子がいた。
「高井さんは並ばなくていいの?」
麻人が聞くと、
「私は、いいかな。それより、もうすぐ始まる神社の儀式が楽しみ」
「僕も、楽しみにしてるんだ。ここの神社の伝説もいいよね」
高井鈴華と麻人が楽しそうに会話をしている横で、恭一は黙っていた。
神社の伝説……二人が楽しみにしている儀式が、もうすぐ始まる。この夏祭りの重要な行事と言えるので、恭一も楽しみにしている。無事に行われることを願うと同時に、緊張感もあった。




