兄弟喧嘩
「はぁぁぁー」
「……」
気合の入った掛け声と共に剣を振り下ろすシオン。それを難なく避けるナズナ。二人の兄弟喧嘩はこんな静かな幕開けだった。
「ちっ……相変わらず生意気な奴だな……不意を突いたつもりだったが、こうもいとも簡単に避けられると流石に腹立たしいぜ……」
シオンは眉一つ動かさずにシオンの剣を避けたナズナに対して、軽く舌打ちをして睨みつけた。
「……」
それでも尚、何の反応も見せないナズナだったが、シオンの事を敵と認識したのか腰に付けた刀に手を伸ばした。
「ようやくお前と決着を付ける時が来たようだな……容赦はしないぞ? ナズナ!!」
今の今まで殆どナズナの事を名前で呼ぶ事をせず、あいつとか奴とか呼んでいたシオンだったが、ここでは名前を口にした。その事からも余程ナズナとの決着を付けたかったという事が伺える。
「……」
ナズナはそんなシオンの気持ちを知ってか知らずか、刀を鞘ごと左手に持つとそのまま体勢を低くした。
「そ、それは……」
シオンはナズナの体勢を見て驚きを隠せない様子だった。その体勢は紛れも無く抜刀術の構え。シオンの得意とする剣術だった。
「……」
特に剣技の名前を口にする事はせず、ただ静かに刀を振るった。ナズナの放った剣技は紛れも無くシオンの最高の剣技である『阿修羅』以外の何物でも無かった。
「……ぐはっ……はぁ、はぁ、はぁ……」
自分の剣技という事もあり、何とか致命傷を避け切ったようだったが、口から血を吐く程のダメージは受けていたようだった。それに加え身体の至る所には切り傷が見受けられた。
「……」
只々見下すように自分の兄であるシオンを見下しているナズナは、地面に片膝を付いたシオンに対して刀を向けた。
「まさか……『阿修羅』を使って来るとは、な……お前には見せた事が無かったはずだが……」
流石にダメージが大きかったようで、もう立つ力も残っていないのかシオンは半ば呆れめているような口振りだった。
「……」
そんなシオンに対して興味を失ってしまったのか、ナズナはシオンに向けていた刀を鞘に納めてしまった。
「……俺を……馬鹿にしているのか? ナズナ……」
シオンの気持ちはまだ死んでいないようで、何とか一矢報いるつもりなのか歯を食いしばって立ち上がってそう言った。
「……」
まさか立ち上がって来るとは思っていなかったのだろう。ナズナはほんの一瞬驚いたような表情を浮かべた。
「……やはりな……お前の事だ……操られて何かいないと最初から分かっていたよ……それに手を抜いている事も、な……」
薄々はナズナがフォンセに操られて何かいない事に気が付いていたのだろう。それまで無表情だったナズナがほんの一瞬だけ表情を変えた事で確信に変わったようだった。




