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6. 肝試し

「ん、そろそろ20分経つから次は私たちですね」

 

 携帯で時間を確認し、琳が福田に呼び掛ける。

 

 

 

 「……」

 

 しかし相変わらずの無反応、一言も発っすことのないまま福田は進もうとする。

 

 

 

 はぁ、と短く溜息をついて、琳も歩きだす。

 

 「琳ガンバレー♪」

 

 と、後から架純の声が聞こえてきたようだが、あまり気にすることもなく歩きだす。

 

 

 

 「えーっと?地図によるとまずは受付ロビーから左に進むと……」

 

 井口から貰った地図を左手に手持ちライトを右手に持った琳はレポート用の写真を撮るのに苦労していた。手が塞がってしまい、撮影するために一々携帯を取り出すのが手間で仕方がない。

 

 

 

 せめてライトを福田が持ってくれれば済む話ではあるのだが。

 

 「……」

 

 そんなことを福田に頼めるほど、琳は度胸のある人間ではなかった。

 

 

 

 カシャッカシャッとシャッターの切る音だけが病院内の廊下に響くも、二人の間に会話はない。しばらくの間静寂が続いた。

 

 

 

 しかし、あまりに居心地が悪かったのか、思いきって琳が話題を振った。

 

 「な、なーんも起きないですねー?」

 

 

 

 「……」

 

 

 しかしその試みは失敗に終わり、やはり返答が返ってくることはなく返って居心地が悪くなる。

 

 

 

 だが、琳も負けじと話題を振り続ける。

 

 「ふ、福田さんはー、井口さんとは付き合い長いんですかー?」

 

 

 「……」

 

 

 「わ、私はー、架純とは中学の同級生でぇ、はじめはあんまり面識なかったんですけど、架純から声かけてくれてぇー……」

 

 

 なんでこんな話をしているんだと内心混乱しつつも、もうどうにでもなれと琳は話を続ける。

 

 

 「私達中学卒業してからも結構遊ぶんですよぉー、今日も架純が誘ってくれてー、ほ、ほら、私オカルト研究部でしょ?だからそういうの好きだろうと思って気効かせてきたんでしょねー……」

 

 「てかごめんなさい私らの話してもつまんないですよね……?」

 

 ハハハ、と愛想笑いを浮かべながら琳が福田の様子を伺う。

 

 どうせしけたツラしてんだろ。そう予想していた。しかし、なにやら福田の様子がおかしく、鼻息を荒げ興奮しているように見えた。

 

 

 「えっ」

 

 

 と、驚きの声をつい出してしまった琳。少し怖い、そう思った。しかし、すぐさま取り直して話しかける。

 

 

 「ふ、福田さん大丈夫ですか?もしかして歩き疲れたとか……?」

 

 しかし、ハッと我に返った福田は落ち着きを取り戻して何事もなかったかのように再び歩き出した。

 

 

 少し気になりはしたが、とっととゴールしたかったので琳も歩きだす。

 

 

 そうして進んでいき、やがて二人は中継地点である二階の病室に到着した。

 

 部屋に入るとそこには患者用のベッドがあり、その上に動物のぬいぐるみが3つ置かれていた。

 

 しかしそこで琳が不思議がる。

 

 「え、3つ?私たちの前に二組出てるんだから2つじゃないの?」

 

 なぜだろうと考えるが、答えがでない。

 

 

 

 「よ、よよよよよ寄り道してるんじゃ?」

 

 

 

 そこで、今まで一言も喋らなかった福田が口を開いた。その口調は緊張しているようで興奮しているようで、またもや福田の鼻息が荒くなっている。

 

 

 「寄り道……ですか?」

 

 「そ、そうだよ」

 

 「それってどういう……」

 

 「お、おおお大方、どこか、て、てててて適当な部屋に入って、た、た楽しんでるんじゃないの……?」

 

 

福田の視線は定まっておらず、どこか挙動不振だ。

 

 

 「えぇ、そんなことってあるわけ……福田さんって」

 

 

 意外と冗談とか好きなんですね。そう言おうとした。しかし、それは福田の言葉に遮られる。

 

 

 「り、琳ちゃんってさぁ!名字……なんて言うの……?」

 

 

 なぜ今このタイミングでこのそんなことを聞くのか、唐突な質問の意味が琳には分からなかった。なので、

 

 

 「えっ?」

 

 そう返すことしかできなかった。

 

 

 

 福田が続ける。

 

 「琳ちゃん、自己紹介のとき名字名乗らなかったでしょ。あれ、なんで?」

 

 

 琳の脳内に嫌な予感が起きる。

 それは琳にとって最悪の事態。絶対絶命のピンチを意味した。

 

 

 「そ、それは……」

 

 

 このままではまずい。そう考えてなんとか誤魔化そうと返答する。

 

 

 「それは……。私の名字あんまり可愛くなくて、あんまり人には言わないようにしてるんです……。ほ、ほら巧さんも最初隠してたじゃないですか」

 

 

 これは嘘だった。琳はそれとは違う理由で名字を隠している。だが、初めて会ったばかりの人間にそれが正しいかどうか、判断できようはずがないので琳はそう答えた。

 

 

 「堂島琳ッ!」

 

 

 しかし、強い口調で福田がそう言い、それに琳の体がビクッと反応する。

 

 

 「堂島琳さん、なんだよね?」

 

 

 そのとき、福田の口角が不気味につり上がるのが分かる。それはなにやらよからぬことを企んでいることを予感させた。

 

 

 「ッ……」

 

 

 なぜバレているのか、福田に対する不安と恐怖から声を出すことができない。

 

 そうしていると、息を荒げながら少しづつ福田が琳に迫り寄ってきた。

 

 

 「い、いや……」

 

 迫り寄る福田に対し、琳は後退り距離をとろうとする。

 

 

 「なんで本名を知っているのかって顔だね……?へっ、へへっ、安心して……別に架純ちゃんがバラしたわけじゃないから……」

 

 まさか、とは考えたがその可能性はご丁寧に福田の発言によって否定される。

 

 福田が続ける。

 

 「じ、実はさ、僕ずっと前から君のファンなんだよ……」

 

 そこで、琳の悪い予感は的中することになる。

 つまりは、この福田という男は自分の過去を、誰にも知られたくない過去を知っているというのだ。

 

 

 「もう分かるよね……?《解放の魔女》そして四年前の《7.28事件》あれは当時衝撃だったなー……」懐かしむように語る福田。一見穏やかな口調ではあるが、迫る足を止めることはない。

 

 「あのとき高校生だった僕は、サイトの動画に映る魔女の姿をはじめて見たんだ……。一目惚れだった……」

 

 

 「くっ……」

 

 「でも彼女が警察に取り押さえられて、魔女の動画も全て削除されて、あのときの僕は酷く悲しんだんだ……」

 

 

 福田の独り語りはまだ止まらない。

 

 

 「どうにかしてまた魔女に会いたい。そう思って僕は必死に魔女の情報をあつめた。でも、当時中学生だった魔女の個人情報は政府に保護されていて、僕がわかったのは本名だけだった」

 

 

 「魔女の名は堂島琳。そう、君と同じ名前さ」

 

 

 そう言って福田は自身の携帯の待受画面を琳に見せる。そこには紛れもない中学時代の琳が写っていた。

 

 

 「君なんだろ?《解放の魔女》は」

 

 「ち、ちがっ……」

 

 「違わないだろ!!!」

 

 もはや言い逃れは出来ない。福田は琳の正体を確信していた。

 

 「まさか、本当にまさかだった。足係として井口に呼び出されただけのこの糞つまらないイベントに、魔女と同じ顔をした女の子が来てたんだから……。あ、厚化粧して誤魔化してたみたいだけど、僕にはすぐわかったよ?」

 

 福田はどこか得意気だ。

 

 「最初は気のせいだと思ったよ?僕の思い違いだって、でも君が自分のことを琳って名乗ったとき、あのとき僕は確信したんだ」

 

 「あぁ、これはきっと神様が僕にくれたプレゼントなんだ。僕は内心スゴく嬉しかったよ。でも、それどころか僕らは今こうして二人っきりでいる……。なんだか、運命を感じちゃうよね……」

 

 「い、意味のわからないことを言うな!」

 

 勇気を振り絞って琳が反抗する。

 

 

 「だ、黙れェ!」

 

 しかし、すぐさま福田が調子を外した怒鳴り声を上げ、近くにあった椅子を蹴りとばす。 

 

 

 「琳ちゃん。お、お願いがあるんだ。僕とキス、してよ...」

 

 

 舌で唇を舐めながら福田がそんなことを言う。

 

 

 「い、いやに決まってんでしょ!なんなんだよさっきから!キモいんだよ!」

 

 後退りを繰り返しながらもちろん拒む琳。

 

 

 「い、いいのかな、そんな事言っちゃって……。言うこと聞かないと、君のことネットに書き込んじゃうよ?」

 

 それは脅迫だった。つまり、福田は琳と二人になったあのときからこうなることを考えていたのだ。

 

 「うっ……」

 

 福田の脅しに一瞬迷う琳。

 距離だけはとらねばと、下がろうとするが、そこで背中が壁に当たる。もう退路はなかった。

 

 「ひ、ひひ、追い込まれちゃったね……。大丈夫、すぐ終わるから、優しくするから……」

 

 琳と福田の距離は次第に縮まっていき、ついには福田の手が届くまでのところに来ていた。


 「琳ちゃん、髪染めたんだね……」

 

 そう言って福田が琳の淡いホワイトをベースにパステルピンクとブルーで染めた髪を手に取る。

 

 「や、やめ...」

 

 既に琳の嫌悪感はピークに達していた。

 さわさわと、福田の手の感触が髪を通して伝わって来る。

 

 

 「魔女のときの黒髪も、僕は好きだったんだけど、染めたのもかわいいね...」

 

 

 そう言って、次は手に取った髪を鼻に近づけ、まるで深呼吸をするかのように大きく息を吸い込んだ。

 

 

 「いいにおい……」

 

 まるで薬物でも摂取したかのような、そんな恍惚の表情を浮かべる福田。それに対し、琳は顔を背けてはただ耐えることしか出来なかった。

 

 

 そしていよいよ、福田がキスをしようと琳に顔を近づける。福田の荒い吐息が顔にかかる。

 

 「い、いやだ……」

 

 「うん?」

 

 「好きな人以外とキスなんて、絶対に嫌!」

 

 

 そう言い切って、琳は膝で福田の股を蹴りあげる。

 

 対男性の究極の一撃、金的攻撃が福田に炸裂する。

 

 

 「ふごぉ!?」

 

 あまりの激痛に、情けのない悲鳴を上げる福田。

 

 

 それを確認した琳は、今しかないと隙を見て素早く福田の包囲を抜け逃走を試みる。

 

 

 「ま、待て!」

 

 福田は琳を止めようと叫ぶだけで、股関を押さえたまま動くことが出来ない。無事、琳は逃げ出すことが出来た。

 



  ◆ ◆ ◆

 



 そう遠くまで走ってはいないが、少し気になったことがあったので立ち止まる。

 

 後ろに振り向き、自分が走ってきた道を見る。暗いだけで、なにもないし誰もいない。

 

 そう、てっきり追いかけてくると思っていた福田がここまで一切追いかけてきた様子がないのだ。

 

 

 「なんかへんじゃね……?」

 

 いくら蹴りがクリーンヒットしたからと言ってこれほどの時間苦しみ続けるとは考えづらい。それとも彼女のことを見失ってしまったというのだろうか。

 

 

 危険だが、確認しようか考え、参考までに地図を見る。

  

 

 どちらにせよ、病院の外に出るためにはあの病室の前を通るしかないようだ。

 

 はぁ~やだな~。そう思いつつも、琳は来た道を引き返した。

 

 

 そして、いよいよ病室のすぐ側までやって来て、どう切り抜けようか考える。とりあえず、部屋の中を確認しようと恐る恐る覗いてみる。

 


 しかし、中には誰もいなかった。

 ホッと安堵の息を漏らす琳。

 

 ならばこのまま普通に行こう。そう思ったそのときだった。

 

 

 クチャ、クチャ。とまるで粘液を混ぜ合わせたときのような。ガムを噛んでいるときのような。

 

 

 そんな謎の音が、どこからか聞こえてくる。気になったので辺りを見回してもそれらしきものは見当たらない。

 

 と、そこで部屋の天井からなにかの液体のようなものが滴り落ちてくる。

 

 雨漏りか?と思いつつ、その液体の落ちる方向に逆らうように、琳は上の方を見上げた。

 

 

 瞬間、彼女は息を飲んだ。

 

 

 そこにあったのは、天井にへばりついた大きな口と大小数十本の長い触手を持ったタコのような化物と、その触手に捕らえられ、今まさにその大きな口に飲み込まれんとする絶命した福田の姿だった。

 

 

 「キャ……」

 

 

 そのあまりの凄惨な光景に琳が叫ぶ。それよりも前に、化物の触手が彼女目掛けて襲いかかった。

 

 すんでのところで部屋と廊下を仕切る壁を盾にして避ける琳。

 

 そうして、琳は逃げるように再びその部屋を後にするのだった。  

多分次回から話が大きく動くと思います。

自壊もよろしくお願いします。

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