5. 癖の強いメンツ
駅の裏側に入ると、ワゴン車の横に集まる男女の集団がそこにいた。
「みんなおまたせー!琳見つけたよー!」
集団にむかって大きく手を振る架純。
「お、キタキタ!」
ニヤリと笑うリーダーらしき男は、なにかスポーツでもやっているのだろうか、ガッチリとした体格で、180くらいは身長がありそうだった。
いかにも架純が好みそうな男だ。
ん~やっぱ今日は外れだな~と心のなかでため息をつく琳。なかなかに失礼だ。
まぁ、あれに比べたらマシかな?とちらっと一人の男を見る。
その視線の先にいた男は不気味な雰囲気をしていた。まるで相撲取りのようなよく肥えた体型、髪は整えておらず、服もシワだらけ。虚な目は伏せがちで、周りの誰とも話そうとせず、ただ静かに車のドアに体を預けていた。
てか、場違い感すげぇ。
あの男に比べれば、他のヤンキーなんて全然マシだ。そう思う琳であった。
「どーもぉ、おまたせしましたぁ~」
このコンパには端から興味がないものの、愛想よくしておいて損はないと琳は猫のような声を出して媚を売る。
「はじめまして!いや~噂には聞いてたけど、ほんとにハデハデだねぇ!あ、俺は井口翔太。翔太でいいよ!」
リーダーらしき男の名は井口翔太。
今日のコンパの企画者らしく、架純とは半年前にクラブで出会って、以後よく遊んでるらしい。よく見てみればわりとイケメンだ。
「さっき二人抜きで自己紹介済ませちゃったんだけど...。まぁいっか、もう一回しよう。まず、こいつが阿久津」
井口がクイッと親指で指してみせた人物は、この中で一番(頭が)悪そうな見た目をしていた。
「阿久津晋吾です。趣味は筋トレ、あとボクシングやってます」そう言って、阿久津は肩腕を上げてマッスルポーズをとってみせる。
その瞬間、琳の背筋が凍る。
うぇぇぇぇぇぇ。こういうタイプが一番苦手だわぁぁぁぁぁぁ。
他の女子陣よろしく「よろしくお願いしまぁす」と言う琳の体表は全身鳥肌を立て拒否反応を起こしていた。
「はい!じゃあ次俺!巧っていいます!バンド組んでギターやってます!」
ソフトなヴィジュアル系っぽい見た目をした男は見た目に反して平凡な名前をしていた。背はあまり高くなく、明らかにチャラそうだった。どちらかというと年下系のキャラのようだ。
あえてこの中から選ぶなら巧君かな~。
チャラそうなところがマイナス点だが、彼に対する琳からの評価は比較的高いものだった。
「えー、巧君は名字岡本って言いまーす。なんで伏せてたかというと、本人曰く「なんかイモっぽくてダサい」からだそうでぇーす」ずいっと体を前に出してそんなことを言う井口。
「それ言ったらだめじゃん!」
すかさずツッコミをいれる巧。
二人のやり取りを見て、他の人はハハハと笑う。二人の定番ネタなのだろうか、一連の流れに無駄はない。
「んでえーっと...、こいつが福田良助、今日は彼が車出してくれまーっす!」
「...」
若干歯切れの悪そうに紹介する井口。軽く会釈するだけの福田。微妙な空気が場に流れる。
どうやら彼は見たまんまの根暗だった。
「...拍手!」
この拍手はなんなのか、井口が強引に場を盛り上げる。
「はーいじゃあ次は女性陣!折田架純です♥ 女子高生です♥ 強そうな人がタイプです♥」
強引に盛り上げた井口からのバトンを架純が受けとる。右手の人差し指を頬にあて、チロリと少し舌を出し、片目を閉じてのウィンク。それが架純の必殺ポーズだった。架純はその視線を露骨に阿久津のほうへ向ける。
うわぁ、架純やっぱ阿久津狙いかぁー...。センスないなー...。
やはり趣味の悪い架純に対して、琳は内心苦言を呈さずにはいられなかった。
「渋川渚です。えっと、こういうとこあんまり来たことがないから色々教えてくれると嬉しいです...♥」
爆乳を揺らしながら恥ずかしがる、小柄な背丈をした渋川渚という女の子は、5秒でバレてしまいそうな嘘をついた。しかし、こういうのを男は好むことを琳は知っていた。
実際、「よろしく~!!」と、男達は鼻の下をのばして露骨に喜んでいる。
結局のところ乳と愛嬌なんだよな。
琳は男共のアホさ加減に少し呆れていた。
「そんで、こっちが佐々木真綾!ここの二人は私のクラスメートでぇーす」
「真綾です。よろしく」
長い髪を掻き上げながらそう言う彼女は、年上の男性相手にも毅然とした態度で、まるで琳達と同い年とは思えないようなお姉さまオーラの半端ない人だった。
へぇ~。架純の友達みんなレベル高いし個性的だな~。と、感心する琳。
お前が一番個性的だしある意味レベルたけーよというツッコミが起きそうなのは言うまでもない。
「んじゃ、最後私ですね!琳です!架純とは中学で同級生でした!こんな見た目ですけど高校ではオカルト研究部入ってます!なんで肝試しとか廃墟とかめっちゃ好きです!」
「お、おぉ~」と男性陣の反応は微妙なもの。
「オカルトってシャーマンとかそっち系かな?」と渚が真綾に囁いて二人でクスクスと笑っているのは恐らく気のせいだ。
琳はあえてこのような挨拶をした。あまり男に興味を持たれて、現地での調査に支障をきたすと困るからだ。
なので、いい感じに男の興味を削ぐことに成功した琳は内心ホッとする。
まぁ、そんなことをしなくてもこのハデギャルに興味を持つ男は中々いないだろうが。
「...」
しかし、今までの女性陣の自己紹介にまるで感心を示さなかった福田が、琳のときだけピクリと反応したことに誰も気づくことはなかった。
「よーし!それじゃあ時間も時間だしみんな乗って乗って!」
自分の車でもないのに、井口が乗車するよう促す。どうやら彼は仕切りたがりの傾向があるようだ。
はぁーい♥ と指示に従う女子達。なんか流石に福田がかわいそうだな。と哀れむ琳。
車は八人乗りのワゴン車で、琳は二列目右端の席に腰掛けた。隣には巧が座っていた。
琳は隣が阿久津じゃなくてよかったと内心喜んだ。阿久津が真ん中に座っている三列目は、彼のたくましい体のせいで少し窮屈そうだ。
「うわー♥ 阿久津さん腕太ぉい♥ カチカチ~♥」
ちゃっかり阿久津の隣をキープしている架純は、さっそく彼の筋肉を堪能しているようだ。
いやいや狭苦しいだけでしょ。
琳は架純の気持ちが理解できそうにもなかった。
そして、車は静かに動き出した...。
◆ ◆ ◆
目的地までは車でおよそ二時間半程の時間を費やした。
道中、車内では身の上話やらゲームやら怪談やらで大いに盛り上がり、琳自身退屈だと思うことはなかった。
「おーっし、それじゃそろそろ着くから。降りる準備しといてねー」
井口がそう全員に告げてから5分も経たないうちに車は停車した。
ぞろぞろと、一行が車から降りていく。
「んー!外の空気おいしー!」
と伸びをしながら架純が言う。
それに続けて、他の皆も久しぶりに吸う外の空気に感嘆の声を上げる。
「はいはいー。皆さんご注目ー」
井口が手を挙げる。
「それじゃ、まぁあそこにある廃病院なんですけども...。名前なんだったっけな、まぁいいや。とにかくあれが今日皆で探索する廃墟スポットでぇーす」
「んじゃちょっと俺は肝試し用に準備してくるから、待っててねー」
そう言って井口は大きなカバンを携えて一人病院へと向かっていく。
他の皆はそれを見送り、その向こうにある病院であろう物に目を向ける。
その規模は結構なもので大病院と言い表してもいいほどだった。
「おぉー」
と巧。
「いかにもって感じね...」
と真綾。
「渚こわいー」
と渚。
皆、思い思いの感想を述べる。
やがて三人は雑談を交わしはじめた。
「そういえばぁ井口さんのカバンの中何が入ってるんですかー?」と、渚が巧に質問する。
「さぁ、実は俺も何も聞かされてないんだよね」と巧。
「もしかして、皆を脅かすための小道具とか用意してたりして...」と、真綾が二人の後ろからそんなことをいう。
まさかぁ、と二人はそれを笑って否定する。
そんな三人をよそに、大きな病院を見据えていた琳は妙な違和感を覚えていた。
あの病院はなんだったか、どこかで見覚えがあるような。課題用に調べていた廃墟候補に似ているのか、それとも...。
思い出そうと試みるが、まるで重いものを頭の上に乗せられたかのような頭の痛みを覚え、イマイチ思考がまとまらない。気づけば、琳の顔色はひどく青ざめていた。
阿久津とイチャついていた架純は、そんな彼女の様子を見逃さなかった。
「琳?大丈夫?顔色悪いよ?」
心配して架純が声をかける。
「あ、うん平気...。ちょっと車に疲れちゃったかな...」
なるべく心配をかけないように、頭を押さえながら琳はそう言って笑ってみせる。
「そう...」
と、架純もあまり深くは追求してこなかった。
「水いる?」
と阿久津が意外な優しさを見せペットボトルを差し出すも、礼だけ述べて受け取りはしなかった。
そして、数分経過してようやく頭痛が治まってきたというところで、ちょうど井口が戻ってきた。
「おまたせおまたせ!いやー!今日の病院は中々雰囲気あるねー!俺準備の途中で戻ろうかと思っちゃったよ!」と冗談っぽく言う井口。
「じゃあざっくりと説明しますよー。これから皆さんには男女のペアを作ってもらいます。ペアができたら、順番に一組ずつ病院内を一周してもらいます。ルートは今から配る地図に書いてあるんだけど、折り返し地点にちゃんと一周したか証明するための人形を置いてあるので、皆さんはそれを持って帰って来てくださーい」
そして井口は自身のポケットをガサゴソと漁り、何かを取り出す。
「ペア決めは、古典的だけどくじ引きで」
井口の両手には、それぞれ男女のくじが四本ずつ握られていた。
「これを引いてもらって、同じ色同士がペアね」
「はーい!じゃあ架純最初に引きたーい!」
元気よく手を挙げ、架純が井口の左手からくじを1つ引き抜く。
「架純はえーっと...赤色、かな?」
架純が選んだくじの先は、インクの性質だろうか、やや黒ずんだ赤色をして色を判別しづらかった。
「ん、架純ちゃん赤色ね!んじゃ皆もどんどん取っていって~」
井口の指示に従い、皆がくじを引いていく。琳も、どうせなら巧君がいいな~、などと考えながらくじを引く。
そうして、全員がくじを引き終わった。その結果、架純が阿久津と、井口が渚と、巧が真綾と、そして、琳が福田とペアを組むことになった。
はは、そんなことだろうと思ったよ...。そう心の中で呟く琳の眼にはキラリと涙のようなものが光っていた。
琳はもはや何も語りはしなかった。むしろ、何も言わない福田とペアなら調査に集中できると開き直ってすらいた。
チラっと架純のほうへ目を向けると、こちらに気づいた架純がペロッと舌を出して申し訳なさそうにしている。
まさか、はじめからこうなるように仕向けてたのか...?
琳の邪推は留まることを知らない。
そんな琳のことを気にするわけもなく、井口がたんたんと進行する。
「よーし決まったな。それじゃあ順番は俺、巧、福田、阿久津のペアの順で行くから!20分置きにスタートしていってね!」
こうして、楽しい楽しい肝試しが始まったのであった。




