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7. 《カンナビ》その真の機能

説明回です。

「それで!?出口はどっちなの!?」

 

 『位置情報を更新中……。更新完了。20m直進した後、左手に見える階段を登ってください』

 

 「あ!? 上!?? なんで上!?!?」

 

 普通に考えて出口は一階だろ、なんで上に行くんだよ?琳は不思議に思った。

 

 『問題ありません。上に進んでください』

 

 まぁ、現状このアプリに頼るしか道はないから、仕方なく指示に従う。

 

 しばらくすると、確かに左手に階段が見えた。

 

 「チッ」

 

 疑心暗鬼になりながらも、それを上に進む。もし下に降りて脱出出来たとしても、こんな化物を引き連れたまま皆のところに戻れば迷惑がかかる。そう考え、琳は下には降りなかった。

 


 事は深刻だ。なにせ、琳達は福田の車でここに訪れ、その福田は既に死んでしまった。運転できる者は他にいるかもしれないが、キーは恐らく福田のところにある。だからといってキーを取りに行くには余りにも危険すぎる。

 

 となると、光もろくにない山の中、徒歩で化物の追跡を払いながらの下山を強いられることになる。携帯は圏外で助けも呼べない。まさに絶体絶命、琳達の状況を表すにふさわしい言葉である。

 

 ん?そもそも圏外なのにどうやってこのアプリはダウンロードされたんだ?

 

 疑問に思ったが、そんなことを聞いている暇はない。

 

 階段を登りきって次の指示を仰ぐ。

 

 「登ったよ!」

 

 『それでは、廊下を右に道なりに進んでください。50m程進みましたら317号と書かれた病室があるはずです。見えましたらそこに入ってください』

 

  やはりいまいち意図が掴みきれないアプリの指示。しかし、317号という言葉が琳は少し気になった。

 

 自分は確かにその部屋を知っている。だが、どうやっても思い出せない。実際に部屋を見ても、思い出せないもどかしさが増すだけだった。

 

 「おまえ、私に何をさせようとしてる?」

 

 『私はただ、この危機をあなたに乗り越えてほしいだけです。さぁ、時間がありません次に参りましょう』 

 

 「……わかった」

 

 スゥー、と息を整えて集中力を取り戻す。

 

 「それで?次は?」

 

 『少々お待ち下さい。エネミーの位置情報を捕捉中……。捕捉完了。階段に戻って欲しかったのですか、既に敵はそこまで追いついてきているようです。別の階段へ案内します。ひとまず、部屋を出て右へ進んでください』

 

 部屋を出て左を見ると、少し離れた場所に化物の姿が見えた。確かにあれではさっきの階段は使えない。

 

 『道なりに進むと広場に出ます。そこに着きましたら左に続く道へ進み、そこから10m先にある階段をお登り下さい』

 

 返事もろくにせず、琳が走り出す。

 

 思えば、病院を外から見た時。その時からここに見覚えはあった。いまこうして走っている廊下もどこかで見たことがある。

 

 走り続けてどれくらいの時間が経っただろう。今頃みんな私の事心配しているんだろうか。

 

 もしかしたら、私はここで死んでしまうのかもしれない。どうしよっか、せめてお父さんや架純にお別れくらい伝えたいな。部活の人達にも挨拶くらいはしたかったな……。

 

 すこしだけ弱気になる琳。

 

 それは積み重なる疲労により身体的にも精神的にも限界が来ていることを意味していた。

 

 いや、まだだ。まだ死ねない。

 もう少しだけ頑張ろう。

 

 残り僅かな気力を振り絞り、琳は加速する。そうして、目的の階段に辿り着いた。

 

 「着いたよ。どこまで登るの?」

 

 『屋上までです』

 

 「……それって何階分?」

 

 『五階分です』

 

 「ハハッ、……おまえマジでふざけんなよ?」

 

 そういえば、カンナビっていうのはどうやら人間をスタミナ無限だと勘違いしているようで、いつだって人に無茶なことを言い出すやつだった。どうやらそれは今も治ってないらしい。

 

 昔のことを思い出して怒りを覚えつつも、それでも琳は階段を登りはじめる。

 

 階段を登りきるにはおよそ8分程の時間を要した。今、目の前には屋上へ繋がる鉄のドアがある。

 


 いったいこの先に何があるというのか、レスキュー隊員?救助ヘリ?それとも屋上なら電波が通るとか?はたまた、私は既に嵌められていて、ドアを開けると化物の仲間がうじゃうじゃいたりして……。

 

 疲労のせいか、つい思考がネガティブな方向へ進んでしまう。もうよそう、どうせドアを開ければ分かる話だ。ここで考えても仕方がない。

 

 ニュルニュルと下の方から物音が聞こえる。化物はもうそこまで来ているんだ。

 

 琳は覚悟を決めてそっとドアを開けた。

 

 


 そこは庭園だった。

 

 といっても、植物はみな枯れ果ててしまっていて寂れた風景だけが広がっている。他に目ぼしいものと言えば、月や夜空が綺麗なだけで、レスキュー隊員も救助ヘリもどこにも見当たらない。

 

 ならば、と携帯を見る。しかし、画面には圏外と表示されており、外部との連絡は出来そうにもない。

 

 携帯を持つ手がワナワナと震える。

 

 「ふざけんな!!!!!」

 

 携帯に、いや、アプリに向かって琳が怒鳴りつける。

 

 「おまえがここまで来いって言ったんだろ!! 私はちゃんとおまえの指示に従ったぞ! それでこのザマはなんだ! 人をコケにするのも大概にしろ!!!!」

 

 鬼のような形相で怒鳴り続ける琳。もはや彼女の怒りは留まることを知らなかった。

 

 『落ち着いて下さい。琳様、あなたはこの場所に見覚えはないですか?』

 

 「なにを……」

 

 そう言って辺りを再び見回して、ハッとなる。

 

 そして、琳はすべてを思い出した。

 

 「こ、ここは……」

 

 「ここは、お母さんとの思い出の屋上……!?」

 

 驚く琳に対して、アプリは冷静な声色で返答する。

 

 『そのとおりで御座います』

 

 二人で座ったベンチ、二人で見た夜の空、なにもかもが懐かしくて……。

 

 いや、そうじゃない。

 

 「それで?」

 

 「ここが私にとって思い出の場所で、おまえが私を連れてきたから、だから何だって言うんだ?」

 

 つい思い出に浸りそうになるのを寸でのところで抑え、琳が質問する。

 

 『そうですね。分かりやすく説明しますと、あなたにはここで力を得てもらいます』

 

 「……は!?」

 

 「力というのは、あの化物を倒す力を意味します」

 

 あまりに突拍子もないことを述べるアプリ。琳は開いた口が塞がらなかった。

 

 「どういうことだよ!? 私を逃がす案内をしてたんじゃないのか!?」

 

 「勘違いをされては困ります。最初に言いました通り、我々は困難な状況の打開、その手助けをさせて頂くだけです。決して、逃げるための道案内をしていたわけではありません。ここから先は、琳様ご本人に頑張って頂くしかないのです」

 

 「は、はぁ……?」

 

 よくわからないまま言いくるめられてしまい呆然とする琳。

 

 アプリが続ける。

 

 『手順を説明をする前に、一つだけ。あなたが力を得るためにここへ来るのは必要なことでした。力を得るために必要なのは三つ、一つは力を得る人間本人、二つ目はその人間にとっての神域。つまりは、その人間の思い出となる場所で御座います。そして、最後の三つ目に必要になるのが依り代となる道具です。琳様の場合、右手に着けていらっしゃる腕輪が該当します』

 

 「???????」

 

 既にこの時点で琳の理解は追いついていなかった。神域って神様が潜む場所とかいうあの神奈備?《CAN-Navigation》はどこいった?

 てか、私の思い出になんの関係があるんだよ???

 

 『二つ目と三つ目について、補足説明をさせて頂きます。なぜ思い出の場所が必要なのか、それは人に力をもたらす《神》が人の強い想いに惹かれ現れるからです。思い出となる場所に本人が訪れれば自然と感情が込み上げるものでしょう?』

 

 「ものでしょう?って言われてもなぁ……」

 

 『続いて三つ目ですが、依り代は付喪神として《神》を宿す器として使用します。なぜ思い出の品である必要があるかというと、所有者の想いが満たされている物の方がより神を降ろしやすい、言い換えれば御し易いからです。神が宿った道具は敵と戦うための装備へと姿を変え所持者に力を与えます』

 

 あー、うーん、わかったようなわからないような……。

 

 『それでは手順の説明に移ります。まずは依り代を目立つようにかざしてください』

 

 おい、まだ私が喋ってる途中だぞ。遮るな。てか、こいつさっきからちょいちょいこんな感じだよなー……。こっちの理解度関係なしに話を進めるのは、所詮は機械というべきか……。

 

 まぁ、文句を言ってても仕方がないので言われるがまま腕輪を着けた右手を前に出す。

 

 「こ、こう?」

 

 『そうしましたら、この場所に訪れ感じた想い、感情を意識してみてください。神はその想いに惹かれて姿をあらわ……』

 

 「ん!?」

 

 おいおいおい!? まだ説明の途中なのになんで止めた!?

 

 おーい! と声をかけるが反応はない。よく見れば、携帯の充電が切れてしまっている。

 

 え、これどうすんの?????

 

 琳が軽く絶望したのと化物が屋上に侵入してきたのはほぼ同時のことだった。

ご覧いただきありがとうございました。

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