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【完結】旦那様には好きな人がいる  作者: えくれあ


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11/15

episode 11

 

 結婚式の時、確かに殿下の仰る通り、誓いのキス、というものがあった。

 しかしながら、私たちはキスなんてしていない。

 旦那様が本当に上手く周囲をごまかしたのだ。


 あの時、旦那様のお顔が少しずつ近づいてきて、ものすごくドキドキしながら目を閉じたことは今でもはっきり覚えている。

 けれどあと少しで唇が触れる、そんなギリギリのところで旦那様は止まり、吐息は感じたけれど私たちの唇が触れることはなかったのだ。

 どこから見ても、キスしているようにしか見えない角度で、唇が今にも触れそうなギリギリの距離感で、旦那様は周囲に上手くキスしたように見せたのだ。


「はぁ……まさか、そこまで何もしてなかったなんて……」


 殿下はなぜか、頭を抱えてしまった。

 確かに夫婦たるもの、していることの方が多いかもしれないけれど、頭を抱えるほどのこと、なのだろうか。


「あ、あの、旦那様と私が、その……き、キス、をすると、何か、あるんでしょうか……?」


 キス、という言葉を口にするだけで、なんだか気恥ずかしい気持ちになるのを感じながら、私はおそるおそる殿下に訊ねてみた。

 そんな私がおもしろかったのか、殿下はくすりと笑った。


「マチルダは、テオに会うたびに魅了魔法を使っててね。その所為で、効果が重ね掛けされちゃってる状態で、マチルダ本人じゃなくてマチルダの写真を見ただけでもその効果が現れちゃうんだ」


 魅了魔法というものは、私の想像以上に恐ろしいもの、なのかもしれない。

 かけられるたびに効力が増すのなら、いつかは自分自身の心が、わからなくなってしまいそうだ。


「だけど、一番大切に想う異性への嫉妬が一時的に魅了魔法の効果を解いたみたいに、一番大切に想う異性とのキスってのも魅了魔法に対して効果があってね」


 魅了魔法に対抗する方法は、いろいろあるようである。

 魔法が使えなくとも、対抗できる方法がある、というのはありがたいことである。


「一度でもキスしていれば、写真程度では魅了されなくなるはずなんだよ」


 なるほど、それで殿下はキスがまだだとお気づきになったのか。

 そんなことをきっかけに、私たちのキスの事情を把握されてしまうのは、大変不本意だけれど。


「それって、キスを何度かすれば、魅了魔法が解けたりもするんですか?」

「んー、たくさんすれば、解けるかもしれないけど、すぐにマチルダがかけ直すだろうからなぁ」


 それでは、まるでいたちごっこだ。

 やはり、魔力なしに対抗するのは、難しいのかもしれない。


「だから、やっぱり魅了魔法にかからないようにするのが一番だと思うんだよね。もちろん、今かかっているのも解けるし」

「それは……っ」


 そういえば、そんな方法があると殿下が仰っていたのをあらためて思い出した。

 それができるのならば、手っ取り早いと思うけれど、旦那様が乗り気ではないご様子なのが気になる。

 ご無理だけは、して欲しくない。


「コゼット、ちょっとこっち来て」

「は、はい」


 私が近づくと、殿下はナイショ話をするかのように、私の耳に手を添えてくる。

 朝の出来事を思い起こさせる光景に、またなんでもない会話だったらどうしよう、と私は思った。


「おいっ!!」


 旦那様が怒っていらっしゃるようだけれど、まるで気にしていないようだ。


「魅了魔法はね、一番大切に想う異性と初夜を迎えたら、かからなくなるんだよ」

「えっ!?」


 耳元で囁かれた言葉にびっくりして、私は殿下から勢いよく離れてしまった。

 今、私の顔は間違いなく、真っ赤になっていることだろう。


「初夜ももちろん、まだなんだろう?」

「ウィル!!!」


 おそらく、耳元で私が何を聞いたのか、旦那様は把握されたのだろう。

 一際大きな旦那様の怒号が、室内に響き渡った。

 しかし、それでいて、殿下は涼しい顔をしていらっしゃる。

 恥ずかしさで真っ赤な顔の私と、おそらくお怒りのあまり真っ赤なお顔の旦那様、そして顔色一つ変えない殿下。

 なんとも不思議な光景である。


「まぁ、初夜というか、夜でなくても、性交渉をしてしまえばいいんだけど」


 そんなことを言われ、私はますます顔が熱くなるような気がした。

 何か言わなければ、と思ったけれど、何も言葉がでてきてくれずただぱくぱくと口を動かすことしかできない。


「身も心も繋がると、惑わされなくなるってことなのかな、不思議だよね」


 同意を求めるようにそう言われたところで、やっぱり私は何も言えずにいた。

 すると、殿下は私が理解できていない、と勘違いしてしまったようである。


「あれ?伝わりにくかった?つまり、セ……っ」

「わーーーーっ!!わかりました、理解しました、だからそれ以上言わないでくださいっ!!」


 決して、言い換えて欲しかったわけではない。

 私は、慌てて殿下の言葉を大声で遮った。

 なんといっても、この物語は全年齢向けの想定なのである。

 言葉を変えながら、同じ内容を連呼してほしくはない。


「そう?ちゃんと理解してくれてよかったよ。これで、テオの魅了魔法、解くことができるね?」


 それはつまり、私に旦那様と……

 そこまで考えて、私は考えを追い払うように頭を振った。

 たとえ、魅了魔法を解くため、とはいえ、私の一存でそんなことできるはずもない。

 そもそも、旦那様はお嫌なのかもしれないし、そこまでして解く必要はない、と考えていらっしゃるかもしれないのだから。


「コゼット、ウィルの言葉は無視していい。俺は君に、無理強いするつもりはない」


 旦那様の懸念点は、あくまで私だけ。

 少なくとも、私にはそう聞こえた。


「旦那様は、お嫌では、ないのですか……?」

「そんなこと、あるはずないだろう。だが、わかっているんだ……俺は君を金で無理矢理、妻に迎えたような男だ。君に嫌がられても、仕方がないと」


 ああ、そうか。

 旦那様は先ほど、好きなのは私だけだと仰ってくださった。

 けれども、私は一度も、旦那様に自分の気持ちを伝えたことはなかったんだ。


「旦那様がお嫌でないなら、私は構いません。私は、旦那様をお慕いしていますから、嫌ではありません」


 旦那様に、どのように伝わったのかはわからない。

 ただ、とても驚いていらっしゃる、ということだけはよくわかった。




 ぱんっと小気味よい音が室内に響く。

 殿下が手を叩いた音だ。


「じゃあ、話もまとまったことで」


 まとまったことに、なるのだろうか。

 そう言われると、なんだかとんでもなく大胆なことを言ってしまったような気がして、いたたまれない気持ちに襲われる。

 それでも、後悔はないのだけれど。


「さすがに、じゃあここで初夜を迎えなよ、というわけにはいかないから。そもそも、今、夜でもないしね」


 夜であったとしても、殿下にさぁどうぞ、と言われて迎えるのはどうかと思う。

 場所も、できれば王宮、でない方がありがたい。


「とりあえず、キスだけさっさと済ませちゃえば?」

「何言って……っ」


 本当に、本当に、本当に、殿下のお言葉には驚かされるばかりである。

 そんなお茶を飲むくらいの、軽い感じで言わないでほしい。

 驚きの声をあげた旦那様だって、きっと同じようなことを思っていらっしゃることだろう。


「そしたら、至る所に飾ってあるマチルダの写真を見ちゃっても、問題なくなるだろ?」

「そんなにあちこち飾ってるわけじゃないっ!!」


 確かに、そんなにたくさんあれば、私も目にしていたことだろうから、至る所にってわけではないだろう。

 とはいえ、旦那様はマチルダ様のお写真を見るだけで、マチルダ様のことしか考えられなくなる、と仰っていた。

 もし、そうでなくなったら、旦那様はほんの少しでも私のことを考えてくださるだろうか。

 そんな期待を、どうしても抱いてしまう。


「わ、私なら……大丈夫、ですよ……」


 なんだか、自分からして欲しいと言ってしまったような気がして、少し恥ずかしかったけれど。

 でも、して欲しいと思っているのも嘘ではないので、旦那様の懸念点が私だけなら、躊躇しないでほしいと思った。


 旦那様が、こつこつと小さな足音を立てながら、少しずつ私に近づいてくる。

 そして、おそるおそる、と言った様子で私の手を取った。


「本当に、いいのか?」

「はい。旦那様さえ、よろしければ」

「わかった」


 と、旦那様は仰ったものの、そのまま目を閉じてキス、とは残念ながらならなかった。

 すぐにでもして欲しい、と思う気持ちももちろんあったのだけれど。

 にこにこと期待に満ちた様子で私たちを見つめる殿下の視線が、気になって仕方がなかったから。


「ウィル」

「なに?」


 旦那様は低いお声で呼びかけた。

 だが、それに対する殿下のお声は明るく弾んでいる。

 なんとも対照的だった。


「俺のことなら、気にしなくていいんだよ?」


 そんなの、無理に決まっている。

 きっと、旦那様だって、同じことを考えているはずだ。


「向こう向いてろ、バカっ!!」

「王太子相手に、バカは酷くない?」


 またも響いた旦那様の怒号に、殿下は渋々ながらも後ろを向いてくださった。

 それを確認して、私はゆっくりと目を閉じる。

 いつでも大丈夫だと、旦那様にアピールするように。


「ありがとう、コゼット。愛してる」


 きっと私にしか聞こえていないだろう、囁くような優しい声が聞こえた後、旦那様の唇が優しく触れるのを感じた。


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― 新着の感想 ―
なんといっても、この物語は全年齢向けの想定なのである。 この一文、これが物語であると主人公が認識していると感じるような、メタ要素と言えばいいのか、途中まで健気な主人公の気持ちで読めていたのが夢から醒…
旦那様の良いところが一つも見えず、ヒロインはなぜずっと惹かれているのか分からないです。 王太子の側妃ルートに進むと思ってました。
テオがポンコツのクズ旦那過ぎる。どうせなら王太子エンドでテオも王太子妃も一生後悔すればよかったのに ヒロインだけが耐える役回りでかわいそう
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