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罪都の簿記官 ―弱みを資源に、帝国を買い取る  作者: 桜庭ユウト


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第19話 「選択の代償」

 国家契約が締結された翌日、灰色街区の入口に新しい紋章が掲げられた。


 帝国特別情報協力区域。


 小さな金属板。


 だが意味は重い。


「守られた、のよね」


 ルシアがそれを見上げる。


「形式上は」


 カイは淡々と答える。


 徴税は固定。


 監視は縮小。


 商会への圧力も止まった。


 数字だけ見れば、安定。


 だが空気は変わった。


 灰色街区の従業員たちは、国家の目を意識している。


 情報を集めるが、言葉を選ぶ。


 笑い声は戻ったが、どこか抑えられている。


「自由が減ったわね」


 ルシアが低く言う。


「守るための代償です」


「その理屈、国家と同じよ」


 カイは沈黙する。


 同じ。


 国家の論理と、自分の論理。


 守るために削る。


 規模が違うだけで、構造は似ている。


 その日の夕刻、イリスが正式文書を持って現れた。


「灰色街区は本日より、諜報部第二分析課の外部協力機関とする」


「分析課?」


「情報の一次整理と評価を担当する」


 つまり、単なる提供者ではない。


 分析にも関与できる。


「条件は守られた」


 イリスは言う。


「あなたの要求通り、分析結果も本部に共有される」


「閲覧権は」


「制限付きで許可」


 国家が一歩譲った。


 だが理由は明白だ。


 灰色街区の情報精度は高い。


 利用価値がある。


「西方の件は」


 カイが問う。


「段階的に開示する」


 イリスは机に薄い書類を置いた。


 西方辺境の地図。


 赤い印。


「資源は表向きの理由だ」


 イリスが言う。


「では本当は」


「西方には古代遺構がある」


 カイの目が細まる。


「遺構?」


「帝国以前の文明の残滓」


 軍が動いているのは、資源だけではない。


「何を探している」


「不明」


 だが予算は大量に投入されている。


 赤字の一部はそこに消えている。


「戦争は隠れ蓑」


 カイは呟く。


「可能性はある」


 イリスは否定しない。


 帝国は赤字を使い、戦争を口実に、別の目的を追っている。


 設計は、想像以上に深い。


「あなたはどこまで知っている」


 カイが問う。


「私も歯車だ」


 イリスは静かに答える。


「すべては知らない」


 初めて、限界を示した。


 国家の内部にいても、全体は見えない。


「だから外部の目が必要」


 カイは言う。


「あなたは利用されている」


「承知している」


「それでも従う」


「崩壊よりはましだ」


 またその言葉。


 だが今回は、少しだけ疲れている。


「セリオの件は」


 カイが低く言う。


「調査中だ」


「国家命令ではない?」


「断定できない」


 それは否定ではない。


 だが真実も言わない。


「……分かりました」


 これ以上は踏み込めない。


 契約は結ばれた。


 今は内側から見る。


 イリスは立ち上がる。


「あなたは選んだ」


「ええ」


「後戻りはできない」


「承知しています」


 扉が閉まる。


 静寂。


 ルシアがカイを見る。


「これで良かったの?」


「最善です」


「最善と正解は違うわよ」


 カイは答えない。


 正解はまだ分からない。


 灰色街区は守られた。


 だが国家の一部になった。


 その夜。


 カイは西方遺構の資料を読み込む。


 古代文明。


 帝国以前。


 もしそこに何かがあるなら。


 赤字の本当の理由は、戦争ではない。


 もっと大きな“何か”。


「……再計算の対象が増えた」


 帝国の帳簿は、単なる財政ではない。


 歴史。


 権力。


 設計。


 その全体を見なければならない。


 灰色街区は足場。


 国家の内部に組み込まれた足場。


 守るための選択は、代償を伴う。


 セリオの死。


 ラドの死。


 それは消えない。


 だが止めることもできない。


「壊さない」


 再び呟く。


「だが、利用はさせない」


 国家は灰色街区を利用する。


 ならばこちらも、国家を利用する。


 契約は鎖ではない。


 道具だ。


 帝国の赤字。


 西方遺構。


 戦争の裏。


 再計算は、次の段階へ進む。


 灰色街区はもう、ただの裏社会ではない。


 帝国の設計図の端に、書き込まれた一行だ。


 そしてその一行は、まだ消されていない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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