【心の変化】3
それから数週間、二人は書庫へ閉じこもった。あれだけ規則正しい生活を推奨していたシルバですら時間を忘れて書物を開き、内容を精査している。二人はなんとか必要そうな書物をそろえ、机に置いた。
「転移の魔術ってのは古代でも研究されていたみたいだね」
「確かに、転移に使えそうな魔術はあったが、転移の魔術はなかったな」
「それだけ難しいってことだね」
ふと時計を見る。十時。どれが朝なのか夜なのか窓のない部屋からはわからない。
「とにかく、この本を研究室に運ぶか」
「うん、結局五冊くらいしかないし、手で運ぼう」
シルバは本を三冊持つと、セシルは二冊、腕で抱え込む。一冊多めに持つシルバの優しさに、セシルは笑いそうになった。
「僕、男なんだから、五冊くらいなら一人でも持てるよ?」
「セシルはひ弱だからな。我が多めに持たねば」
その心遣いに心が温かくなる。自分の使い魔がシルバでよかった。これは最近、セシルがずっと思っていることだ。最初は魔王を呼び出してしまったことに不安を感じていたが、今では心強く感じる。
二人が魔術棟の廊下を歩いていると、目の前にイアンがいるのが見えた。シルバはピタリと動きを止めた。どうにかして別の道に行けないものか。そう思考していると、イアンはこちらに気づいて歩みを進めてきた。シルバは諦めて、セシルの前に立つ。
「おや、セシルさんとシルバさんではありませんか」
「……何か用事か。我らは忙しい」
「そんな邪見にしないでください。取って食おうとしているわけではないのですから」
「……セシル、行くぞ」
シルバがそう言いながら歩きだした。セシルも黙って着いていこうとする。しかし、イアンはセシルを呼び止める。
「セシルさん。魔術の作成がうまくいってないようですね?」
「え?……はい、そうですけど」
「実は政府から通達があったのですよ」
そういうと、イアンはセシルの耳元で何かをつぶやいた。シルバはその様子が気に入らず、セシルの手を無理やり引いた。
「イアンといったな。セシルに近づくな。我の力でつぶされたくなければ」
「いえいえ、少し情報をお耳に入れておきたかっただけですから」
イアンはすっとセシルから離れた。そして手をひらひらさせながら、後ずさる。
「では、わたくしはこれで」
廊下の奥に消えていくイアンを見送りながら、シルバはセシルを見る。
「セシル?」
顔が青かった。今にも倒れそうに震えている。
「……なにか、あったか?」
「いや、なんでもないよ」
セシルはシルバに笑いかけた。しかし、その笑みはいつものものではない。
「……研究室に行くぞ。何、気にするな。我がいるのだ。問題はない」
「……うん」
二人は研究室へ足を向けた。




