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007_異世界_恋愛(愛に堕ちる)


 深く重い鉄の扉が閉まる音を背に聞きながら、シャーロットは冷たい石壁に背中を預けた。

 手で覆った顔が、自分でも驚くほど熱い。

 ドクドクと脈打つ鼓動が、体の中全体にうるさいほど響いていた。


 ──あんなふうに自分が愛に堕ちるなんて、想像もしていなかった。

   だからこそ、今の自分に激しく動揺している。



 この世界は、彼女が前世で読みふけっていた乙女ゲームの、それも最悪の破滅ルートが存在する悪役令嬢の世界だった。

 没落を回避するため、シャーロットは幼い頃から「感情の死んだ完璧な令嬢」を演じてきた。

 誰の誘惑にも乗らず、誰にも心を許さず、氷の仮面を被って計算高く生き抜く。それが彼女の生存戦略だったはずだった。


 それなのに。


「……ずるいでしょう、あんなの」


 脳裏をよぎるのは、この国で氷血の公爵と恐れられる男、ギルバートの姿。

 ゲームのシナリオ通りなら、彼はシャーロットを冷酷に切り捨てる最大の敵役。だからこそ自分は彼を警戒し、距離を置き、ビジネスライクな関係を築いていたはずだった。


 しかし先ほど、庭園の片隅で暗殺者の襲撃に遭った際、彼はシャーロットを庇って躊躇なく刃の前に立ちはだかった。


『君に傷一つでもつけさせるくらいなら、私の命などいくらでも差し出そう』


 普段の冷徹な仮面をかなぐり捨て、怒りを孕んだ瞳で彼女を抱きすくめたあの腕の強さ。

 そして、無事を確認した瞬間に見せた、安堵したかすれたほほえみ。


「完璧な令嬢」の盾は、そのたった一瞬で、跡形もなく粉砕されてしまった。


 利害関係だけで繋がっていたはずの男に、魂ごと引きずり込まれるような感覚。

 恋なんて愚かなもの。人生のノイズだと切り捨てていたはずなのに。


「……どうしよう」


 シャーロットは胸元をきつく握りしめる。

 彼を失うかもしれないと考えた瞬間に胸を突き刺したあの恐怖。それこそが、何よりの証明だった。


 冷徹に生き延びるはずだった異世界で、彼女は今、計算外の熱に浮かされている。


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