006_異世界_not恋愛(自分の価値は)
「ダン、悪いけどその荷物もまとめて運んどいて。明日、早いからさ」
「あ、あと私のレイピアも見ておいてくれる?ちょっと魔物の返り血で汚れちゃって」
宿屋の一室。当たり前のように重い荷物と汚れた剣を押し付け、ニックとケイトは「じゃ、飯行ってくるわ」と部屋を出て行った。
僕たち3人は、小さな村で一緒に育った幼なじみだ。
成人したのを機に、少し大きめの町へと出てきて、3人でパーティを組んで冒険者になった。
最初はお互いに助け合っていたはずだった。
だけど、3ヶ月が経った頃には、明確な格差が生まれていた。
ニックもケイトも、前衛としてそこそこ強い。剣の腕も魔法のセンスもあった。対して、僕は戦いに関しては平凡そのもの。だからこそ、荷物持ちや罠解除、野営の準備に装備の管理といったサポーターとして、必死に二人を支えようと頑張ってきたつもりだった。
けれど、戦闘の立ち位置が決まってきてから早々に、二人の態度から僕への感謝は消えて、サポーターというよりは、ただの便利な雑用係として扱われるようになっていた。
そんなある日のこと。
ギルドの酒場で、ある中堅パーティから声をかけられた。よく名前を聞く、4人組の実力派パーティだった。
「よう。お前らが最近噂の新人だな。よければ俺たちと組んで、大物の討伐に行かないか?」
リーダーらしき男の提案に、ニックとケイトの目が輝いた。
「マジかよ! ぜひお願いしたいです!」
「ちょうど、もっと上を目指したいと思ってたところなの!」
二人は乗り気で、自分たちの強さが認められたのだと、疑わずに胸を張っていた。
けれど、僕は声をかけてきたリーダーの視線が、ニックやケイトではなく、ずっと僕の手元に、使い込まれた道具袋や、丁寧に手入れされた装備に注がれていることに気づいた。
もしこのパーティに入れば、僕はニックとケイトのフォローだけでなく、この4人の重労働も背負わされることになるのではないか。リーダーのその目は「都合よくこき使える優秀な奴隷」を見つけたような大人のそれだった。
「なぁ、ダンももちろん来るだろ?」
僕は、静かに息を吐いて首を振った。
「ううん。僕は遠慮しておくよ」
「え? なんでよ、ダン」
ケイトが不満そうに眉をひそめる。
「最近、二人の戦闘スピードについていくのがやっとだったんだ。僕はみんなとはレベルが合わない。これ以上、足引っ張りたくないんだ」
あえて自分の実力不足を理由にして、僕はその場を断った。
中堅パーティのリーダーはつまらなそうな顔をし、ニックとケイトは「まぁ、ダンがそう言うなら……」と、あっさり僕の離脱を受け入れた。引き留める言葉は、一つもなかった。
翌朝、僕は二人と荷物を分け、その後二人が食事に行っているうちに宿を出た。
あの町にいれば、いつまでも誰かのための便利な道具にされる。そんな窮屈な関係は、もううんざりだった。
目指したのは、さらに遠くにある別の街。
新しい街に着き、僕は心機一転、ソロで地道に依頼をこなした。あの町で身につけたサポーターとしての技術は、一人で生きる僕にとって、強固で大切な基礎になっていた。
「あの、すみません。ダンさんですよね」
ある日、ギルドの掲示板の前で、3人組の冒険者に声をかけられた。
真面目そうな魔術師の青年、大盾を持った戦士の少女、そして長剣を腰に差した剣士の少年だった。
「僕たち、前衛と後衛のバランスは良いんですが、斥候や荷物管理や計画を立てるサポーターがいなくて行き詰まっていまして……。ギルドからダンさんを紹介されたんです。もし良ければ、一度一緒に依頼に行きませんか? 報酬はきっちり4等分します」
彼らの目は、僕を対等な仲間として求めてくれていた。
「――はい。僕で良ければ、ぜひ」
彼らと組んだ冒険は、驚くほど快適だった。
僕が野営の準備を整えれば「ダンのおかげでゆっくり休める!」と本気で感謝され、僕が皆の体調を見て明日は1日休むとか、遠出の探索を計画とかしたら「前は行き当たりばったりでやってたから力尽きて街に戻れなくて野宿とかしてたけど、ダンがいればそんなことないからすっごい助かる!」と笑顔を向けられた。
僕はけして最強の戦士にはなれない。
けれど、僕の技術を都合よく搾取するのではなく、正当に認め、必要としてくれる場所は確かにあった。
かつての幼なじみたちが、今頃どこでどんな冒険をしているかは知らない。
でも、僕は僕の価値を分かってくれる仲間たちと共に、この街でそれなりに、上手くやっている。




