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062_not恋愛(理不尽な出来事)婚約解消、バッドエンド、2059字


 私たちは同じ年の幼なじみで、隣り合う領地を治める家柄だった。

 いつからかお互いを想い合うようになり、自然な流れで私たちは婚約者になった。



 おじい様が亡くなって王都の学園への編入が1年遅れたこと、それがすべての歯車を狂わせる始まりだったなんて、あの頃の私は想像すらしなかった。





 王都の学園で待っていたのは、我が物顔で振る舞う王女さまと、その引き立て役としてハチの巣のように群がる取り巻きの男たち。

 その中にアルフレッドがいて。

 私が学園で見た彼は、昔の誠実な幼なじみではなく、王女の傍らに侍って冷酷な笑みを浮かべる貴公子そのものだった。


「どうして私を避けるの?」


 そう問いかけようと近づいた私を、彼は冷たい視線ではねつけ、取り巻きたちは私を追い払う。

 何度彼に手紙を出しても返事はなく、贈り物はすべて返却されてしまった。

 他の取り巻きの婚約者からは「アルフレッド様の態度は王女様からあなたを守るためのお芝居よ。王女様が卒業するまでの辛抱よ」と教えられたけれど、アルフレッドになんの説明もされていない私には納得できなかった。



 ——なぜ、私がそこまで耐えなくてはいけないの?



 王女の気まぐれに付き合わされ、冷遇され続けるいわれなんてない。

 そう思った私は父を通してすぐ婚約を解消し、学園で優しくしてくれたクロードと新たに婚約した。





 卒業パーティでアルフレッドが私とクロードの手を見て取り乱したとき、私は誇らしくさえあった。

 「私たちの婚約は1年以上前に解消されているわ」と告げたとき、彼の「なぜだ、僕の事情は手紙で説明したではないか」と言う声は、今思えば悲痛な絶望の叫びだった。

 だのに、そのときの私はただの言い訳だと切り捨ててしまったのだ。



 アルフレッドは騒ぎを起こしたとして卒業パーティの会場から引きずり出された。


 私は卒業後すぐにクロードと結婚し、子どもも生まれ、すべてが順調だった。

 その後アルフレッドが廃嫡されて出奔したと聞いた時は、自業自得だとさえ思っていたわ。




 けれど、私の平穏は脆く、崩れ去ってしまった。





 先月、あの王女が予定通り帝国の第二皇子へ輿入れした。

 しかし、学園時代からの彼女の悪行は帝国には筒抜けで、王女は現地で徹底的に冷遇されていると王国中で大騒ぎになった。

 王女の母である側妃の実家が情報を隠蔽し、国王の目を欺いていたことが発覚すると、国王は大激怒して側妃と離縁、側妃の実家は爵位を剥奪された。王女への救済も一切禁止されたという。



 では、元王女の取り巻きだった男たちはどうなったのか?

 噂の的は彼らに移った。

 彼らは皆、あらかじめ婚約者と連絡を取り、裏で手を取り合って学園時代を耐え抜き、今では全員がもとの婚約者と結婚して幸せに暮らしている。


  ——アルフレッドを除いて。



 気になって両親に問いただした。そして分かったこと。

 アルフレッドは事情を細かく書いた手紙も、私への贈り物も、ちゃんと送ってくれていたという。けれど私の実家も、アルフレッドの実家も、「王女の機嫌を損ねたらおしまいだ」「余計な波風を立てるな」と、それらをすべて握りつぶし隠蔽していたのだ。

 そして、アルフレッドの知らないところで、勝手に両家が話し合って婚約を終わらせていた。

 アルフレッドは、親たちの保身の道具として切り捨てられていただけだった。



 この真相が知れ渡ると、風向きは一気に変わった。


 他の取り巻きたちはうまく立ち回ったのに、アルフレッドだけは誰にも救われず、家にも婚約者にも裏切られてすべてを失っていた。

 アルフレッドに同情の声が集まる一方で、周囲は私たちを見る目を冷たく変えた。

   保身のために息子の婚約を勝手に切り捨てた家

   アルフレッドを見捨てたリリーベル

 実家はもちろん、私自身も周辺貴族から露骨に距離を置かれるようになった。

 アルフレッドの実家は彼を追い出した罰として、今や取り潰しの噂すら立っている。




 耐えきれなくなった私は、友人に泣きついた。


「だって相手は王族よ! 田舎住まいの私たちにとって殿上人だわ。私たちがそこまで責められる理不尽がある? 」


 友人は冷ややかに私を見つめ、こう言った。


「あなたの言う理屈でいえば、アルフレッド様にも非はなくてよ。それどころか、一番の被害者は、家にもあなたにも見放されたアルフレッド様ではないのかしら」



 その言葉に、私は一言も返すことができなかった。


 ちょっと前まであんなに幸せだったはずなのに。今では婚家やクロードからの視線さえも少しずつ冷たくなり、私は自分の居場所を失いつつある。


 ねえ、どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 私はただ、理不尽に耐えるのが嫌だっただけなのに。


 すべてを失い、たった一人で北へ去っていった彼は今、どこでどうしているのだろうか。


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