063_恋愛(自分のペースで)婚約解消、2358字
自分のペースっていうのが、私はかなり、いや、相当、人より多分遅い。
中でも、人とつき合っていくペースが、すごく遅い私が、なかなか慣れてこなくても、見捨てないでいてくれた。
いつも何となくそこにいてもらえる事が、一番嬉しかった。
いつから変わってしまったのだろう。
いや、あの人は悪くないのだ。
成長するにしたがって、人との付き合い方を学んで、慣れていくべきなのだ。
田舎貴族である私の心にあるのは、婿入りするはずだった隣の領の幼なじみのキリクの面影だった。
かつて彼は、内気で不器用な私の歩幅に、いつも合わせてくれるような人だった。
しかし、王都の学園へ進学したキリクからの手紙は次第に減り、1年遅れで自分が王都の学園に進学したとき、そこにいたのはまるで別人のように変わってしまった幼なじみ。
華やかな男友だちや女友だちの輪の中心にいるキリクは、気後れしてその輪に入れない私を、からかうような素振りで出迎えた。
それを見た彼らの友人もまた、同じように私に接する。
そうして、おざなりに扱われている日常は、王都に付き従ってきた従者や侍女の報告書によって正しく記され、家族に届けられた。
周囲の貴族子息たちから「不釣り合い」などといった陰口を叩かれる中、それでも1年は耐えたし、その間、自分の家やキリクの家から、いさめる手紙を送ってもらったりもした。
でもキリクは変わらなかった。
だから私は、彼との未来をあきらめた。
この先の将来、今と同じような状況が続くのに、耐えられる気がしなかったから。
学園生活2年の春に、正式に私とキリクの婚約は解消となった。
人付き合いの得意でない私に、次の婚約があるなんて思ってもいず、「きっと一生独身かな。養子をとって領地を継いでもらって…」と、一人今後の未来に悩む日々。
でも、それから間もなく、私の未来はまたしても大きく変わる。
逆隣の領主の子であり、かつて兄のように慕っていた5つ年上のヘンリーとの縁談がまとまったのだ。
夏休みに帰った領地で、同じように帰省していたヘンリーと久しぶりに会うことになった時、私はとてもドキドキしていた。
ヘンリーもキリクと同じように、変わってしまっているのではないか。
ずっと一緒にいたキリクがああなら、しばらく疎遠にしてなおかつずっと王都にいたヘンリーならなおさら――そう考えずにはいられない。
でも、杞憂だった。ヘンリーは、昔と全然変わってなかった。
久しぶりで様子見している私に無理に距離を詰めることをせず、学園はどう?興味のある抗議は?あの先生はまだいる?僕の時は――――毎日そんなとりとめのない話をして、ゆっくり近づく。
私を待ってくれる。
だから両親から「ヘンリーと婚約するのはどうか」と聞かれた時、安心してその手を取ることができた。
王都で優秀な文官として働いていたヘンリーも、私との結婚を機にその職を辞し、うちの領地の次期領主として生きる道を選んでくれるという。
私の残りの学園生活の間に、ヘンリーは仕事の引継ぎを行い、卒業とともに二人で領地に戻ることに決まった。
そうしたら両家の母が「折角だし、短いこの期間だけでも二人で暮らしたら」と言う。
でも「結婚もしていない男女が同じ家で暮らすなんて」と私の父が反対をして。
そんなこんなで、「じゃぁ先に結婚しちゃったらいいじゃない」ということになったのだ。
この国では16になれば成人だ。
学園時代に結婚してしまう人はそれなりにいる。
婿入りなので、表向き私は何も変わらない。
そういうことで、秋には親族だけで結婚式を挙げた。お披露目と言う意味での結婚式は卒業後にやるという。
そして私は学園の寮を出て、王都のタウンハウスでヘンリーと共に暮らすことになって。
多分、このスピード婚にいちばんあたふたしていたのは私だと思う。
でも、ヘンリーが「全部親がやりたいって言ってるんだ。任せようよ」と言うので両親に託したら、両家の母親たちが張りきって新居を整えて、満足して帰っていった。
新居に二人だけ。(使用人はいる)焦る私。
でも、ヘンリーが「手を出すのは学園卒業後ってお義父さんと約束しちゃったからね。それまでに覚悟を決めておいてね」と言ってくれて、心の準備期間をくれたので、ほっとする。
そういうところが好きだ、好きな人と結婚できてよかった、そう思う。
そして冬になり、キリクの卒業が近づいたある日、彼から「卒業パーティにパートナーとして出席してほしい」という自分宛ての招待状が届いた。
私はもちろんそれを断った。
しかし諦めきれなかったのか、キリクはある日、学園の食堂で彼の友人らを引き連れて私の前に現れた。
「いつまでそんな意地はるのやめなよ、キリクも困ってるぜ」
そう言って笑うキリク友人たちを前に、私は少しも怯むことなく、淡い微笑みを浮かべて告げた。
「お誘いありがとうございます。ですが、キリク様との婚約はだいぶ前に解消され、私はすでに他の方と結婚しておりますので、そのようなお伴はいたしかねます。」
その言葉にキリクの顔が青くなるのが分かる。
彼の家にも結婚の話は伝えている。彼は未だ家からの手紙を見てもいないのだろう。
周囲のざわめきを背に、私は友人と席を立って食堂をあとにした。
きっとあのままキリクと結婚していたら、私は自分を見失っていただろう。
自分の人生を、自分のペースで。それに合わせてくれる家族と友人と、そしてヘンリーに、改めて感謝した。




