058_not恋愛(異世界忍者になった後)男主人公、再現忍者、なんか続いた2、聖女、3818字
国境を越え森を駆け抜け、自らを『シノビ』と名乗って数年。
クリストフは「サスケ」という偽名を使っていた。ちなみに○ルトではなく伝説的な猿飛の方からいただいた名前である。
ある日、森の奥でいつものように風魔法を駆使した「忍者走り」の特訓をし、赤いマフラーを風になびかせていると、見覚えのあるドレス姿の少女が歩いているのに気がついた。
近づいてみれば、それはかつて王家の都合によって婚約を一方的に破棄され、クリストフを追って国を出たあの元婚約者の侯爵令嬢だった。
「私を置いていくなんてひどいですわ……!」
「いや、本当すまない……!(婚約者の存在なんて今の今まで忘れていた……)」
あの時流した涙は本物だったらしい。
彼女はクリストフを追うために家を飛び出し、平民落ちしてしまっていた。それを知ったクリストフは激しい罪悪感に駆られた。
しかし、話を聞けば彼女は土魔法と水魔法の使い手だという。試しに「土遁の術」の再現を頼んでみたところ、完璧に地面へ潜り込んで見せた。
「素晴らしい!君こそ、我がシノビの里にふさわしい人材だ!」
「まあ、サスケ様のお役に立てるなら……!」
こうして彼女は「風花」という名に改名し、晴れて我が隠れ里の「くノ一」として迎え入れられたのだ。
ただ、一つだけ大きな問題があった。
「あのさ、フーカ。いつまでも『サスケ様』って様付けで呼ぶの、やめてくれないかな……」
「いいえ、我が主であり愛しいお方ですもの。サスケ様とお呼びするのがふさわしいですわ」
何度言っても聞く耳を持ってくれない。まあ、実害はないので放置することにした。
今は、フーカが使える土魔法と水魔法を、いかにして忍術に昇華させるか日々頭を悩ませている。
例えば、土遁の術は彼女のおかげで完全に実用化された。
次は水遁の術。潜った後に顔を起点として真上に筒状の壁を細長く構築する。水面上の穴を小さくすれば、完璧だ。ただ、その状態を維持するのにかなりの魔力を使うようで、何かいい方法がないか思案中である。
そんな隠れ里ライフを送っていたある日、ギルド長から深刻な顔で相談を持ちかけられた。
なんでも、故郷のほうの山に飛龍が大量発生し、手がつけられなくなっているらしい。俺に何とかできないかというのだ。
「うーん、持ち帰りだな」
結論から言えば、今の俺なら○めはめ波(高密度圧縮風魔法)を使えば、楽勝で倒せる。しかし、そんなことをすれば「ドラゴンスター」だの「ドラゴンスレイヤー」だのと呼ばれて世間に顔が割れてしまう。
「なぜですの、サスケ様?飛龍を討伐すれば名誉も報酬も莫大ですわよ?」
首をかしげるフーカに、俺は真剣な顔で言い放つ。
「決まってるじゃないか!そんなことをしたら目立っちゃうだろ。忍は忍ばないと!」
全力でやればそこそこ強い自覚はあるが、忍びとして、目立つのは一番の悪だ。
魔獣の素材や迷宮品だって、適当に実家に送りつけたり、隠れ里の倉庫に放り込んで、表立った功績はすべて隠蔽してきた。
でも、話を聞けば、ワイバーンが出現したのはよりによってフーカの実家の領地らしい。それなら話は別だ。しょうがない、一肌脱ぐとしよう。
俺はフーカの父である侯爵に挨拶に向かった。
「お久しぶりです、お義父さん……じゃなくて、侯爵閣下」
「おお、クリストフ君!生きていたか!」
事情を説明し、取引を持ちかける。
「ワイバーンは俺が全部倒します。でも、討伐者はあくまで『侯爵領の騎士団』ということにして、俺の名前は一切表に出さないでほしいんです」
「なっ、命懸けの討伐なのに、名誉もいらないのか?」
「目立ちたくないので」
納得いかない様子の侯爵だったが、なんとかその条件で話はまとまった。
いざ討伐へ、という段階になって問題が起きた。
なんと、侯爵領の騎士たちも同行するというのだ。
「いや、俺の移動は忍者走り(風魔法ブースト)だから、待ってられないんですが……」
足手まといをどうしたものかと頭を抱える俺に、背後からフーカが助け船を出した。
「あなた方、サスケ様の足手まといになる気ですの?私たちは先に行きますわ。ついてこれなきゃ置いていきますわよ!」
さすが我が隠れ里のエースくノ一、話が早い。結局、山へ登り、現れたワイバーン5体を撃破。魔法鞄に詰め込んでさっさと引き上げる途中、必死の形相で登ってくる侯爵領の騎士たちとすれ違った。
「あ、ごめんね。もう終わったから帰るとこなんだ」
「……は?」
ぽかんとする騎士達を置き去りにし、俺とフーカはさっさと山を下り、侯爵にワイバーンを丸ごと引き渡した。
素材の金なんて興味ないので、すべて進呈だ。
これで一件落着、隠れ里に帰って忍術の研究の続きをするかと思っていた矢先。
突然、フーカがその場に崩れ落ちた。
「えっ!?なんだ、病気か?それとも毒を受けたのか!?」
「い、いえ……これは……もしかして……」
診断の結果、まさかの妊娠発覚。
……当然、俺の子である。身に覚えしかない。
こうなっては、隠れ里でのテント暮らしというわけにもいかない。産まれるまでの間、侯爵家でお世話になることになった。
しかし、「働かざる者食うべからず」「勤労は国民の義務」だ。暇を持て余した俺は、侯爵家の仕事を手伝うことにした。
昔は跡取りとして領地経営を学んでいたし、前世の現代的問題解決法が案外領地問題の解決に役立った。おまけに忍術の再現で培った知識もあるので、与えられた仕事をさくさくこなし、フーカと子のために、暇さえあれば魔獣の討伐に精をだした。子がいると物入りだろうと、侯爵に頼んで隠れ里の倉庫に突っ込んでいた魔獣の素材や迷宮品も売りさばいてもらった。
これだけあればフーカや子に苦労させることもないだろう。
「こんなにたくさん……!侯爵家の総資産を超えるのではないかしら。さすがサスケ様ですわ!」
「正直、幼い頃にあんな変人と結婚したいと言い出した時はどうなるかと思ったが……お前の見る目は確かだったな、フーカ」
知らぬところで侯爵に感心されていたその矢先、侯爵家に実家の父上と義母がやってきた。
話を聞けば、フーカは「平民に落ちた」と言っていたが、実際には色々と複雑な事情があり、修道院に入れられたことになっていたらしい。
「クリストフ、お前の子供のためにも、正式に貴族に戻ってきてくれないか」
なんでも、もともと王家の横槍が原因だったため、特例で籍を戻してくれるという。しかも、侯爵がワイバーンが出たあの山を含む領を伯爵位ごと譲ってくれるので、フーカと結婚してそこの領主になってほしいと頭を下げられる。
「えー、今更また貴族に戻るの……面倒くさそうだな……」
げんなりしていると、横にいたフーカが目を輝かせて言った。
「サスケ様、素晴らしいご提案ではありませんか!」
「そうかな?」
「そもそも忍は目立ってはいけないのでしょう?でしたら、表の顔は『伯爵領の領主』、裏の姿は『忍者』としてはいかがでしょうか!」
――なんだって……!?
「なにそれ、めちゃくちゃかっこいいじゃん……!」
表の顔があれば、不審者としてギルドや街で変な目を向けられることもなくなる。完璧なカモフラージュだ。
「ふふ、でしょう?あのワイバーンが出た山の滝の裏に、秘密の抜け穴を作って隠れ里に直結させましょう。まだ他にも再現したい忍術が山ほどあるのでしょう?魔法が使える騎士たちを募って、忍術の実験部隊として研究させるのも面白そうですわね!」
「フーカ……君は天才か!忍を完全に理解しているな……!」
彼女ほど忍の心を理解しているパートナーはいない。貴族に戻る面倒臭さなど、そのロマンの前で霧散した。
「その話乗りました。伯爵領、ありがたくいただきます。もちろん、フーカとも結婚します!」
こうして、表向きは新進気鋭の若き伯爵、裏では隠れ里を統べる最強の忍『シノビ』としての新しい生活が始まろうとしていたその矢先、教会関係者が押しかけてきた。
「王国内から行方が知れなくなっていた聖女様の居場所が判明しました!」
「は?聖女?うちに関係あるのか?」
「はい!グレイヴェール領にて、数々の奇跡を成し遂げ、魔獣を瞬殺し、世界を救った最強の存在……!クリストフ様、あなたこそが王国が探し求めていた真の聖女様です!!」
「「「は……?」」」
その場にいた全員が絶句した。
クリストフ(サスケ)は心底うんざりした顔で、聖職者たちを冷たい目で見据える。
「何をバカなことを言っているんだ。見て分からないか、俺は男だぞ。今から隠れ里の設計図を引かなきゃいけないし、産まれてくる子供の名前も考えなきゃいけないんだ。忙しいから、帰ってくれ!」
バサッと赤いマフラーを翻し、サスケは一瞬で姿を消す。(火遁の術[風魔法代用])
残された教会関係者と家族たちは、ただ口を開けて固まるしかなかった。
世間がどう騒ごうとも、今日も今日とて、孤高の忍びは我が道を往くのである。(あ、家族ができたから孤高じゃなくなった)




