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055_恋愛(タイムリープ)悪役令嬢逆行、並行世界、3057字


 目が覚めたとき、私の背中には冷たい汗がびっしょりと張り付いていた。


 信じられないほどの嫌悪感と、喉の奥からせり上がるような息苦しさ。私は自分の喉元に手を当て、呼吸に問題ないことを、冷え切った指先で確認する。


「……病死、ですって?」


 ふざけないで。あの喉を焼くような激痛、内臓を掻きむしられるような絶望が、ただの病気で片付けられるわけがない。私は確かに、毒を盛られて殺されたのだ。


 夢の中で、私はあまりにも理不尽な結末を迎えていた。

 学園に進学した私の婚約者――この国の第二王子は、子爵家の庶子である小生意気な娘と恋に落ちた。そして卒業パーティーの席上、彼はあろうことか私を衆目の前で断罪したのだ。身に覚えのない「子爵令嬢への苛め」と、私の大切な幼馴染である侯爵令息との「不貞」という、くだらない冤罪をでっち上げて。


 所詮、冤罪である。厳密な調査がされ、私の無罪は簡単に証明された。しかし、夢の中の私は、王家への配慮から表向きは修道院送りとされ、裏では「病死」に見せかけるために食事に毒を混ぜられてじわじわと苦しみながら処分された。薄れゆく意識の中で、私は彼らの身勝手さを呪い続けた。


「……なぜ、こんな夢を?」


 ただの悪夢だと笑い飛ばせればよかった。けれど、夢の中で第二王子が鼻の下を伸ばしていた子爵令嬢の名「ララ」。彼女が実は子爵の庶子であることなど、私が現時点で知るはずもない情報が、後で調べるとすべて事実と一致していた。


(あれはただの夢ではない。予知夢か、あるいは神が私に授けた未来の警告だ。

 このまま何もせず学園に行けば、私はあの悲惨な運命を辿り、毒を盛られて死ぬことになる。それだけは絶対に、死んでもお断りよ)


 何よりも許せないのは、私の大切な幼馴染――かつて将来を誓い合った、侯爵令息の彼を私の破滅に巻き込むことだ。


 そもそもこの婚約は、優秀な私と公爵家を取り込み、箔をつけたいという王家側からの強い要望で結ばれたもの。それがなければ、私は幼い頃から想い合っていた彼と、今頃穏やかな婚約期間を過ごしていたはずなのだ。それなのに、第二王子の不貞のせいで私が泥を塗られ、命まで落とすなど理不尽にもほどがある。


(第二王子との結婚は、何が何でも絶対に回避する。お望み通り、あの子爵令嬢と勝手に溺れさせてあげるわ。……ただし、私と彼を巻き込むことだけは許さない)


 すでに第二王子との婚約は成立している。公爵令嬢として、婚約者として王都の学園に通うことは避けられない。そのため、徹底的に隙をなくすことから始めた。


「子爵令嬢への苛め」「彼との不貞」などという冤罪を王家側に証明させるため、私は父である公爵に直訴した。

「お父様、最近第二王子殿下の身辺で少し不穏な噂を耳にします。我が身の安全と、何より王家との絆を守るため、王家の『影』を殿下と私にそれぞれ護衛として配備していただけないでしょうか」


 娘のただならぬ様子に一抹の不安を覚えた父は、国王へ根回しをし、私たちにはそれぞれ超一流の「護衛(という名の監視役)」が就くことになった。これで、私がいつ、どこで、誰と何をしていたかはすべて王家の記録に残る。私がその令嬢の髪の毛一本触れていないこと、誰かを使っていじめを指示していたなんてことがないことも証明される。


 あと、一応念には念を入れて、彼との接触も控えておこう。そう思い、入学前年の彼の誕生日プレゼントの包みの奥深くに、手紙を潜ませた。『いずれ解消される第二王子との婚約に、少しの瑕疵もつけないため、しばらく疎遠にさせてほしい』と。


 夢の中で私を救おうと必死に叫んでくれた彼の顔を思い浮かべ、胸が締め付けられる。けれど、これが二人で生き残るための唯一の方法だと自分に言い聞かせた。



 学園に入学すると、恐ろしいほど夢の通りの日々が流れていった。

 第二王子は、入学早々にあの子爵令嬢ララと懇意になり、授業の合間をみては二人で行動を共にするようになった。


 彼らが甘い時間を過ごしている間、私や第二王子の背後に潜む「影」は、その始終を日々国王夫妻、そして私の両親へと報告されてることだろう。もちろん、私がララを苛めていないこと、幼馴染と一切接触していないこと、それどころか王子妃として毎日勉学に励んでいることも併せて。


 ある日、ついに国王夫妻から第二王子へ厳しい呼び出しがかかった。

「婚約者がいながら、他の令嬢と醜聞を流すとは何事か」と。

 焦った第二王子は、夢と同じように私を悪者に仕立て上げようとした。


「父上、母上!騙されないでください!エレオノーラは裏でララにひどい虐めをしているのです!私は彼女を守るため共にいたのです。エレオノーラは私の妃にふさわしくない。彼女との婚約を破棄したい!」


 哀れな第二王子。彼には見えていなかったのだ。玉座の影から、無表情に彼を見下ろす「影」たちの姿が。


「――エレオノーラ嬢がララ嬢に接触した事実は、この1年、ただの一度もない。また、彼女が虐めを指示しているなどといったこともない」


 国王陛下の冷徹な声が響く。

 王家の影による徹底した調査報告書が、第二王子の前に叩きつけられた。そこには、ララを実際に虐めていた人物の正体も克明に記されていた。


「ララ嬢を虐めていたのは、ジュリエッタ嬢だ」


 ジュリエッタ。第二王子を狙っていた別の伯爵令嬢だ。彼女は私と王子の不仲を察し、いずれ婚約が解消された後に「次の婚約者」の座を射止めようと画策していたらしい。邪魔なララを痛めつけ、その罪を私に擦り付けようとしていたのだ。


 すべてが白日の下に晒された。

 私には何一つ瑕疵がない。むしろ、王家側の不誠実によって公爵家の名誉を著しく傷つけられた形となった。

 激怒した国王陛下により、第二王子は即座に継承権が剥奪され、罰として遠い同盟国へと文字通り「生贄の婿」として叩き出されることが決定した。当然、彼が愛した子爵令嬢を連れていくことなど許されるはずもない。


 ララは、婚約者がいる身と知りながら第二王子に接近し、不適切な接触をしたとして教育のため修道院送りが決定した。……しかし、彼女が修道院へ護送されるその夜、事件は起きた。

 私への冤罪計画を潰され、自らの野心も潰えたジュリエッタが狂乱し、ララを襲って殺害したのだ。王家の醜聞をこれ以上広げないため、その死は「病死」として片付けられた。


 夢の中で私が辿るはずだった結末は、形を変えて、仕掛けた張本人たちへとそのまま返っていったのだ。


「……やっと、終わったのね」


 第二王子との婚約は正式に白紙となり、我が公爵家には王家から慰謝料と誠意が示された。

 晴れて自由の身となった私を迎えてくれたのは、学園の間、ずっと私の言葉を信じて遠くから見守り続けてくれた、あの愛しい幼馴染だった。


「よく頑張ったね、エレオノーラ。もう、君を誰にも渡しはしない」


 彼と抱き合いながら、私はようやく、安堵の涙を流した。

 私たちはすぐに婚約し、誰に気兼ねすることもなく、温かで幸福な結婚式を挙げた。


 あの恐ろしい夢――毒を盛られ、喉を焼かれるような絶望は、きっと、私たちがこうして結ばれるために、神様がくれたほんの少しの悪戯だったのだろう。

 私の隣で優しく微笑む夫の手を握り締めながら、私は静かに、勝利の笑みを浮かべた。



前作からちょっと視点が変わった並行世界のお話でした。

ちなみに逆行前は双方とも同じ展開で、エレオノーラは虐めてないし浮気してないけど、第二王子は証拠がないため罰せられなかっただけでエレオノーラがやったと思っていました。実際やったのはジュリエッタです。3人とも不幸になった。

前作逆行後はエレオノーラは幼なじみと普通に交流していた結果、幼なじみとの不貞を疑われてエレオノーラ側が有責となったようにララには伝わってますが、不貞はしておらず、婚約解消後エレオノーラは幼なじみと結婚しているので幸せになってます。(エレオノーラが不貞したって広めたのはジュリエッタ)

こっちでは言わずもがな。

エレオノーラは完全無罪、悪いのは全部ジュリエッタ、第二王子はどうしてもヒロインと結婚したい、ヒロインはそんな第二王子に流される。っていう感じでした。

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