056_not恋愛(異世界忍者に、俺はなる!)再現忍者、3787字
気がつけば、俺は異世界にいた。
いや、正確に言うと、8歳のある日、泥団子を丸めてピカピカに磨いていたら「あ、俺、前世は日本人だったわ」と、前世の記憶を思い出したのだ。
あたりを見回せば、中世ヨーロッパ風の街並み。噂に聞く魔獣の存在。そして、人々が日常的に使う魔法の数々。
(これって、俗に言う「剣と魔法の世界」ってやつじゃないか?
しかも、この世界のルールを調べてみたら、どうやら「鍛えたら鍛えただけ強くなる」仕様……)
「……となると、もう、やるっきゃないじゃん!!!」
前世、何度夢見たことか。
屋根の上を軽やかに跳び、闇に紛れて悪を討つ、あの孤高の存在。
そう、忍者に、俺はなる!
前世の記憶を思い出したその日から、俺の猛特訓が始まった。よく言うだろ、何事も幼い時が重要だと。
まずは基礎体力作りだ! 毎日ランニングに、腕立て伏せ、腹筋、そして庭の木への飛び移り――。
「……はぁ、はぁ、無理。死ぬ。これ絶対に死ぬ」
開始から3日目。筋肉痛で指一本動かせなくなった俺は、ベッドの上で確信した。
前世がインドア派なら、今世のこの体もめちゃくちゃ「ひょろがり」だった。というか、まだ体が完全にできてないのかもしれない。子ども特有の無限に走り回れる体力があっても、腕立てとか、腹筋とか、ましてや木から飛び降りるなんてできっこない。木から手を滑らせて落ちてお尻を強打する。ぴえん。なんてこった、異世界転生しても俺の運動神経の初期値はポンコツのままだった。
だが、ここで諦める俺ではない。
そう、この世界に本物の忍者はいない。ということは、だ。
「結果的に忍者っぽく見えれば、それはもう忍者なのでは?」
よし、頭を使おう。今のひょろがりな自分に使える能力を最大限に活かして、前世仕込みの「代替仕様」で忍者を実現してやろうじゃないか。
幸いなことに、俺には一つだけ才能があった。
――風魔法だ。
よし、これで全忍術を再現する!
~ 風魔法で開発する忍術(代替案)~
・火遁の術
仕様案:風魔法で空気を限界まで圧縮させて、一気に発散させることで爆発を起こして敵の目を眩せる
テスト結果:あかん、これ自爆技だ。目の前で爆風が起きて目眩しはいいが、自分へのダメージもでかい。却下。
代替仕様:風魔法で周囲の砂埃を猛烈に巻き起こす。視界を遮るという意味では、実質煙玉と言っても過言ではない。これでいこう。
・水遁の術
仕様案:水中に潜り、竹筒の代わりに空気の球を頭にかぶる。
テスト結果:理論上はいけると思ったけど、俺が使えるのはあくまで風魔法であって、空気を操作するわけじゃない。顔の周りを延々風魔法でぐるぐるさせて水が入る余地がない状態にすれば、潜れはしたけど、ぶっちゃけ息がし辛いうえに視界が悪い。隠れるだけならいいかもしれないが、顔の周りを風魔法でぐるぐるさせたら水面が渦を巻いてバレる。うーん、これは却下だな。
・土遁の術
仕様案:地中に潜る。
テスト結果:……土魔法だったら完璧に実現できた。でも俺の属性は風一択。土遁は諦めて、泥を顔に塗って草むらに隠れる古典的な方法(物理)にする。
・水蜘蛛の術
仕様案:水の上をアメンボのように渡る。
テスト結果:試行錯誤の末、常に自分の背中を「前方斜め上」に向かって突風を吹き上げ、その揚力で体を浮かせつつ水面をダッシュしてるように見せることに成功。
……待てよ。これ、水面である必要ないんじゃ……飛べた!っていうか、これあれだ。ジェットスーツ。まぁ水の上を進めてるからヨシ!
・手裏剣術
仕様案:手裏剣か、なければクナイ、妥協して小さいナイフみたいなのを投げる。
テスト結果:筋力がないので普通に投げるとヘロヘロと落ちる。だが、投げた瞬間に風魔法で方向微調整して、追い風で加速してやると……『ビシュッ!』と木の幹に深く突き刺さる必殺必中の追尾弾になった。これは大成功、完全なる忍びの武器だ! まぁ消耗品なので、いっそのこと空気弾打った方が効率的にも……いや、手裏剣はロマンだ。譲れない。
・口寄せの術
仕様案:巨大な蛙などを召喚する。
テスト結果:蛙、居ないこともないけど俺がムリ。こんな気持ち悪い相方嫌だ。そもそもテイマーじゃないので魔獣との契約とかできないし。代わりに、森で口笛の練習を重ね、誕生日に買ってもらった鶏(名前:ピーコ)を呼び寄せることに成功した。
「ピーコーーーー!」と叫ぶと、ダッシュで駆け寄ってくる。実質口寄せってことでいけるだろう。
・分身の術:/ 変化の術
テスト結果:はい、無理。物理的に体を増やすとか、別人に変身するとか、風魔法の範疇を超えすぎている。変装(メイクと服の着替え)で女の子っぽくなれるが、魔法的な術は潔く諦めた。
・変わり身の術
仕様案:攻撃された瞬間、丸太と入れ替わる。
テスト結果:これは普通に横跳びで避ける前に魔法鞄から身代わり人形出して置けばいけるかな。うん、これはできるぞ。魔法鞄、買ってもらえれば…… でもそもそも身代わりを置く意味って何だろう?(※深く考えてはいけない)
・螺旋丸
仕様案:手のひらに風の乱気流を発生させ、球体に凝縮して回転させ、相手に叩きつける
テスト結果:なんと、これはいけた! 凄まじい破壊力だ。やばい〇ルト!
いや、でも待てよ。これを使うには敵に超至近距離まで接近する必要がある。ひょろがりの俺がそんな接近戦を挑むの、怖すぎない?
むしろ、この高密度に圧縮した風をそのまま前方に放出した方が、遠距離から安全に仕留められて実用的じゃないか……。つまりこれはか○はめ波では。うーーん、採用。いや、螺旋丸は螺旋丸として取っておこう!ロマン枠として!
・忍び足/忍者走り
仕様案:音を立てずに走り、高速で移動する。
テスト結果:「風を制する者は、音(空気の振動)を制す!」。自分の足元に風を流すことで、音波を遮断。さらに、走るときは背後から常に「追い風」を吹かせて体を押し出すことで、ひょろがりとは思えない速度の移動が可能に。これぞ忍!
・察気術/物真似の術
気配察知に関しては、森で毎日自主トレをしていたら、自然と周囲の殺気や動体に敏感になってた。
動物の物真似(主に犬と猫)も極めた。「ワン!」「にゃー」と森で全力で鳴く練習をしていたら、通りすがりの冒険者に「……おい、あそこで不審者が犬の真似してるぞ」と冷たい目で見られた。心は折れていない。
それから数年。
俺はギルドでもそこそこ名の知れた冒険者になっていた。
あ、ちなみに。この世界では基本的に、冒険者ギルドに登録する際に「パーティ名」を申請することが可能だ。
俺は一匹狼、もとい孤高の隠密として生きていくと決めていたので、当然ソロ(一人)パーティだ。
受付のお姉さんに「パーティ名はどうされますか?」と聞かれ、俺は迷わずフッと不敵な笑みを浮かべて、こう答えた。
「――『シノビ』で頼む」
お姉さんは「えっ、シノビ……? 登録者はご本人一人だけですか?」と不思議そうな顔をしていたが、ソロパーティ名としてしっかり受理された。だから、俺の冒険者としての公式な呼び名は『シノビ』だ。
そして現在、我が『シノビ』の依頼達成率は100%。
気配を消してターゲットの背後に忍び寄り、追尾式の手裏剣(風ブースト)で一撃。万が一囲まれても、謎の突風(煙幕)と共に消え去り、水の上を爆走して逃げていく。
おまけに、遠距離から放たれる空気砲(※〇めはめ波)で魔獣を一撃で葬る。
ギルドの奴らは、俺のことを敬意(と多大なる困惑)を込めてこう呼ぶ。
「おい、またあの『シノビ』が依頼をこなしたらしいぞ」
「強い、確かに強いんだが……あいつ、何であんな格好してるんだ?」
そう。俺は今、こだわりの「忍び装束」に身を包んでいる。
だが、この世界には黒い伸縮性のある生地なんて存在しない。
仕方がないので、黒く染めた分厚い麻布をツギハギし、顔には黒い顔隠しをかぶる。さらに、首には真っ赤な長いマフラーを巻き付けている。
歩くたびに、風魔法でその赤いマフラーを常に後ろになびかせるのだ。
「なぁ、あいつマフラーが常に浮いてるぞ。風も吹いてないのに」
「格好良さをアピールするために、わざわざ魔力を使って風を当ててるらしい。バカなのか天才なのかわからん……」
「しかも時々、物陰で『ニンニン』とか呟いてたり、犬の鳴きまねしてるし…… 関わらないでおこう」
失礼な。これは「忍び」としての精神統一と、カモフラージュの訓練だ。
強風になびく(セルフ演出)赤いマフラーをなびかせ、俺は今日も屋根の上から飛び降りる。着地の手前で風魔法を足元に放ち、ふわりと無音で着地。
「フッ……我が風の忍法、今日も冴え渡っているな……」
怪訝な目で見てくる街の通行人たちをスルーしながら、ソロパーティ『シノビ』を率いる俺は、今日もこの異世界で、我が道を往く「最強の忍者」として闇に消えるのだった。




